2つのクォータ

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2009 [2009年04月17日 01時00分]
ここ最近、ルワンダのコーヒーが日本国内でも注目され賑やかしい。スターバックス社がルワンダの生産地に切り込んだことを始め、昨2008年にアフリカ初のCOE(カップ・オブ・エクセレンス)が開催され、スペシャルティコーヒー市場でも活気づいているようだ。大概、「ルワンダは元来コーヒー栽培に最適な環境を有し、約100年前から栽培が始まり、一旦は内戦などで衰退したが、近年の産業復興によって高品質な豆が増産されつつある」という主旨が語られているようである。
 
確かに、ルワンダでは独立以前の植民地時代である1904年よりコーヒー栽培が始まり、当時から現在に至るまで外貨獲得の主要産物としてコーヒーの歴史があることに間違いはない。だが、この国に1990年から内戦状態が続き、1994年のジェノサイド(大虐殺)が引き起こされた原因と経過に、ルワンダのコーヒー産業も関与している、と私は考えている。
 
内戦と大虐殺に至る階級対立(=誤用の民族対立)の背景に、急速な人口増加に伴う食糧増産のために、粗暴な開墾と過耕作が繰り返されて農地環境が急速に悪化した経過がある。同時に、当時の輸出収入の8割を占めたコーヒーの市況相場が、不安定で長期に低落したことで、ルワンダの国家経済は停滞した。そして、1987年ルワンダは、ICA(国際コーヒー協定)のクォータ(輸出割当枠)制の再導入確保に失敗し、これが翌1988年の紅茶国際価格の暴落と併せて、輸出経済壊滅の決定打となったのである。1989年にICAのクォータ制は運用が停止され(事実上廃止)、翌1990年ルワンダでは内戦状態に突入し、ジェノサイド(大虐殺)が起きた1994年、同年の新たなICA(国際コーヒー協定)からは、クォータ(輸出割当枠)制が完全削除されていた。
 
ジェノサイド後も現在まで復興の多難に苦しむルワンダだが、「奇跡」と言われる状況もある。政治における女性の進出率が世界一である。2003年国会議員の48.8%が、さらに昨2008年には56.3%が女性議員で占められている。同様に、内閣の37.1%、知事の33.3%、裁判官の35%が女性である。この最大の要因は、2003年に制定された新憲法で、「あらゆる意思決定機関の少なくとも30%を女性にせよ」というクォータ(割当枠)制が明記されているからである。
 
コーヒーの「クォータ」制に泣いて、内戦と虐殺で人口の1割を失い、男女比が3対7にまでなったルワンダが、平和を願って女性比率の「クォータ」制を導入、女性の政治進出で世界一となる。ルワンダにおける2つの「クォータ」を考えた時、ルワンダのコーヒーに、カップテイスティングの規定用語では言いあらわせられない、独特の苦味と酸味を感じるのは、私だけだろうか?
 
この稿は、2009年5月24日に開催される予定の「日本コーヒー文化学会」総会において、基調講演として「ルワンダとルワンダコーヒー」がとりあげられることを知って、記したものである。
 
前述の通り、昨今、ルワンダのコーヒーは国際的に評価され、その品質と味わいに注目が集まって、熱い状況である。かく言う私も、総会基調講演を独り先行記念して、カランビ・セクター産ガタレ・ステーション精製の生豆を、改めて焙煎抽出し、味わってみた。確かに一般的なケニアやタンザニアに劣らない、良質で好感の持てるアロマとフレーバーがある。特に、強く、しかし柔らかい柑橘系の酸味と、後味のキレの良さは、特筆に価する、と感じた。
 
ルワンダの産業振興にとってコーヒーの役割は多大である。このままルワンダに高品質コーヒーの増産を求め、例えばウォッシングステーション整備を進めれば即効性は高い。それはそれで歓迎すべきところではあるが、他方、再びコーヒー産業に対してのみ過大に依存し過ぎれば、不安定な国際相場に影響され、国家経済が泣きをみる歴史を繰り返しかねない。一方で(短期では)コーヒー産業に依拠し、他方で(長期では)コーヒー産業から脱却する、並列の方策と調整を進めることが、他のコーヒー生産諸国と同様、ルワンダの進むべき本音であるはずだ。そうした意味で、ルワンダのコーヒー豆の品質や特性、或いは価格ばかりを論ずるだけでなく、「文化学会」らしい広汎な視点でとらえるべきことを、この稿で考えてみたかったのである。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
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