凄日の雑香

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年10月06日 05時00分]
展示会だの祭典だの記念日だのを余所(よそ)目に、世にひっそりと発せられたコーヒー話を読み返すのも面白い。
 
 
 凄日の雑香 (1)
まず、煙草「ナチュラル アメリカン スピリット」(Natural American Spirit:通称アメスピ)Webサイト内の「AMESPI VILLAGE」、そのセッション2(2018年7~9月公開)にはコーヒー絡みの3人が登場した。宮出博史(宮出珈琲園:徳之島)と柚原ひかり(未晒し木綿の布コーヒーフィルター ひととき:東京)と堀口俊英(堀口珈琲:東京)である。
 
 《今、僕は出荷用にイエローブルボンという比較的栽培しやすい品種も育
  ててますが、ここでは自分が飲みたい品種だけを育ててます。ティピカ
  という品種です。(略) コーヒーの葉を発酵させてから焙じるとコーヒー
  の香りがする甘いお茶になるんですよ。(略) コーヒーの葉でお茶を作
  ってるのは恐らく世界で僕だけじゃないですか》 (宮出博史:談/
  AMESPI VILLAGE 第3弾)
 
 《シェフの友人を呼んで、紙とこの布のフィルターで飲み比べをしたんです。
  そうしたら、最初、 友人は紙の方が美味しいって言ったんです。理由は
  紙の方が『雑味があるから』って。でも、しばらくしたら、『やっぱり布の
  方が美味しい』って。これって、私たちが無添加の布を知らなかったか
  ら味の記憶の蓄積がないからなんですよね》 (柚原ひかり:談/
  AMESPI VILLAGE 第4弾)
 
 《コーヒーの美味しさを追求するなら、ドリップのお湯の温度とかにこだわ
  る前に、『まずはいい生豆を使った方がいい』というのが僕の考えでし
  た。(略) そこで大事なのは、コーヒーの量とお湯の温度と抽出時間の
  バランスです。(略) コーヒーは嗜好品です。ただ、嗜好品だからといっ
  て「好みは人それぞれだから」みたいな逃げ方をしていては本当の美
  味しさには出会えない。いくら良いコーヒーを提供しても味わう側がしっ
  かり味わえなかったら届かないんです》 (堀口俊英:談/AMESPI
  VILLAGE 第5弾)
 
 凄日の雑香 (2)
出荷用と自分用に別けて栽培するコーヒー農家、漂白したネル布とではなくて紙と比べる未晒し木綿のフィルター制作者、湯温が大事なのか大事でないのか判然としないコーヒー屋…私には趣旨が解らない。少なくとも、《コーヒーの葉でお茶を作ってるのは》宮出博史だけではないし、《味の記憶の蓄積がない》とか《味わう側がしっかり味わえなかったら届かない》とか他責な逃げ方をしていては本当の美味しさには出会えない。自家撞着に陥ったコーヒー話は、私が喫するアメスピとコーヒーを不味くする。
 
 
 凄日の雑香 (3)
次に煙草つながりでは、公益財団法人たばこ総合研究センター(略称:TASC)機関誌の『TASC MONTHLY』、その2017年3月号(No.495)に旦部幸博による随想「コーヒーのおいしさ」が載った。
 
 《最初は格好付けて少し我慢しながら飲んだブラックコーヒーも、今では
  おいしく感じている。コーヒーの味の中核は、何といっても苦味である。
  (略) 「おふくろの味」や「家庭の味」など、食の嗜好はその人の食体験
  にも依存する。苦味への慣れと認容が関わるコーヒーでは、それが特
  に顕著だ。(略) コーヒーのおいしさは、一人一人がそうして積み重ね
  ていく「コーヒー体験」の上に成り立つ、まさに「人生の味」と言えるだろ
  う。》 (旦部幸博:著 随想「コーヒーのおいしさ」)
 
私には、旦部さんのようにブラックコーヒーを《格好付けて少し我慢しながら飲んだ》記憶がない。コーヒーを飲むより先に、幼少期に苦味の強い漢方薬を浴びるほど飲まされていたからだろうか? もしも、《苦味への慣れと認容》があの漢方薬の体験の上に成り立っているならば、私が《コーヒーの味の中核は、何といっても苦味である》と思えること自体が、まさに「人生の味」と言えるだろう。
 
 
 凄日の雑香 (4)
さらに旦部幸博つながりでは、公益社団法人応用物理学会(略称:JSAP)機関誌の『応用物理』、その第87巻 第10号(2018)の「ホッとひといき」に「物理学で迫る「コーヒーのおいしさ」の仕組み」と題する稿を旦部さんが寄せていた。
 
 《物理学者、寺田寅彦──本誌『応用物理』の創刊メンバー(編集委員)の
  1人であり、X線回析に関する先駆的発見をした、戦前の日本を代表
  する科学者です。(略) そんな寺田寅彦が愛したコーヒー──その中に
  も、数々の「物理学のタネ」は潜んでいます。》 (旦部幸博:著 「物理学
  で迫る「コーヒーのおいしさ」の仕組み」)
 
旦部さんは、抽出したコーヒーの液滴のマランゴニ浮揚、液面の「もや」、コーヒーリング効果などから、焙煎中の豆の(硬さや大きさや構造などの)物理的変化、生豆の物理的性状と香味の連関まで、実にわかりやすく説いた。ところで、寺田寅彦(1878-1935)の門下にあった中谷宇吉郎(1900-1962)に因む「中谷宇吉郎雪の科学館」(加賀)の現館長は、日本コーヒー文化学会の現会長でもあり水素焙煎コーヒーとやらを(雪の科学館でも)盛んに喧伝している。トンデモ似非科学者のコーヒー話は、私が喫するコーヒーを不味くする。旦部さんの活躍で、口直しの機会が増えることを望む。
 
 
いわば「密やかに公然」(?)のコーヒー話、秋の深まりとともにコーヒーの香りを楽しみながら雑考する。凄日(せいじつ)の雑香(ざっこう)である。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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