皮肉り・皮肉な

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2018年09月22日 01時00分]
映画の公開が近づくにつれて、ここぞとばかりに原作の小説『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和:著)を新聞広告で売り込むサンマーク出版の破廉恥には呆れ果てる。《青春時代に戻ったような、なつかしい気持ちになれました(70歳・男性)》だの、《視力や記憶力のおとろえで長編小説は読めないとあきらめておりましたが、一気に読み切りました(65歳・女性)》だの、《長らく司馬遼太郎ファンでやってきた私にとって、この小説は驚きの連続である(75歳・男性)》だの、《どの世代にも読んでほしいです(89歳・女性)》だのと…まるで青汁やグルコサミンの宣伝だな、と皮肉りたくなる。
 皮肉り皮肉な (1)
そもそも、小説『コーヒーが冷めないうちに』自体、設定が粗雑にして描写も暗愚なのだ。《すでに一気に飲みほせる温度》の冷めたコーヒーに《ザクザクと砂糖をカップに入れ、ミルクをたっぷりと入れて》しまうし(第一話)、地下にある喫茶店が《明治七年にオープンし、約百四十年が過ぎた》というし(第二話)、《一度この席に座って時間を移動した者は、二度と過去にも未来にも行けなくなってしまう》という極めて重大なルールが隠蔽されているし(第四話)…まるで「口からデマカフェ」だな、と皮肉りたくなる。
 皮肉り皮肉な (2)
だが、『ふしぎな岬の物語』(2014)や『さいはてにて やさしい香りと待ちながら』(2015)や『函館珈琲』(2016)などコーヒー絡みの映画を観てきたのだから、今般の映画も観てみよう…その気が冷めないうちに。
 皮肉り皮肉な (3)
 
『コーヒーが冷めないうちに』 観賞後記
 
 皮肉り皮肉な (4)
映画『コーヒーが冷めないうちに』は、皮肉な出来である。少なくとも、脚本の奥寺佐渡子と監督の塚原あゆ子の手腕が発揮されていて、原作を読んだときよりも心は冷めない。例えば、不自然極まりない川口俊和の原作と異なり、映画にだけ登場する‘猫’の使われ方は「使えるものは猫でも使え」的な‘アンナチュラル’に強引な感じが塚原あゆ子監督らしくて笑える。但し、タイムスリップする時の「水に落ちる」映像描写は、《喫茶店でのタイムスリップということに意味を持たせないとダメだなと思って、コーヒー、湯気、水……という連想だった》(塚原あゆ子:談/Webサイト『コーヒーが冷めないうちに』 プロダクションノート)と言われても、映画『テルマエ・ロマエ』(2012)に倣ったとしか思えず陳腐。
 皮肉り皮肉な (5)
他方で、抽出指導はキーコーヒーだが器具はカリタで器はハリオで宣伝にメリタとコラボするバラバラさ加減が禍(わざわい)したのか、コーヒー映画としては‘泣ける’どころか笑えるほど演出が不出来。何故にタイムスリップする時だけ、よりによって冷めやすい「香りマグカップ」(ハリオ)を使っているのか? 蓋然や整合に欠ける物語をコーヒーが助長してしまう、その皮肉に‘泣ける’どころか笑える映画だ。『コーヒーが冷めないうちに』は、原作でも映画化されても「4回泣けます」などと嘯く。その舞台は喫茶店「フニクリフニクラ」だったが、「口からデマカフェ」と店名を変えるべきだろう、と皮肉りたくなる皮肉な話である。
 
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コメント

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ボスケ URL [2018年09月23日 14時00分] [編集]

醒めたコーヒーって、どこか独特な情感が漂っていて、飲むのはすきなんだけど、小説とか映画となると満足させるのは難しいと思いますね。「ふしぎな岬の物語」は無条件で見に行ったのですが。この映画も醒めてからの方が美味しいコーヒーになれば、と思います。皮肉が醒めないうちに見た方がいいかな。

to:ボスケさん
帰山人 URL [2018年09月23日 15時50分]

小説や映画ってのは夢物語ですからね、夢から醒めちゃ‘お話’にならない。醒めたコーヒーが美味しいのはコーヒー自体にそもそも夢がないからだ、と私は思ってます。あれは好奇、つまり興が醒めた味わいなんですな。例えば、ドイツ映画『コーヒーをめぐる冒険』(Oh Boy:2012)、青年がコーヒーに興じている間はコーヒーを飲み損ねてザマアミロって感じだけれど、クリスタルナハトを述懐した老人の死に居合わせると翌朝にコーヒーが飲めちゃう。興醒めて実に陰険な味わい、そういうところが映画『コーヒーが冷めないうちに』にはありません。まぁ老い先短い爺婆が観るには、こっちの方がイイのかも…

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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