スタバで修羅場

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年09月12日 01時00分]
1983年、ハワード・シュルツはイタリアのミラノへの出張の合間にバールのエスプレッソやカフェラテを初めて味わい、《アメリカの人たちは、カフェラッテのことを知らないのだ。これをアメリカに伝えるのは私の使命だ》(『スターバックス成功物語』 ドリー・ジョーンズ・ヤング:著 小幡照雄・大川修二:訳 日経BP社:刊 1998)と思ってしまった。それから35年後の2018年9月7日、スターバックスコーヒーはイタリアへ上陸した。ミラノのコルドゥシオ広場沿いにある元郵便局ビル内に店舗を構築中、ハワード・シュルツは「私の夢が現実になる」(Il mio sogno si sta avverando)と看板を掲げた。親交か、侵攻か? 反発されるか、受容されるか? …巷間では、高級形態の「スターバックス リザーブ ロースタリー」が(シアトルと上海に次いで)イタリアでの1号店としてオープンしたことを騒ぎたてるが、問題の本質はそこにない。ライセンス契約を結んだイタリアの小売大手ペルカッシ(Percassi)が店舗展開を進めていく、そこが「スタバで修羅場(しゅらば)」となるのだ。
 スタバで修羅場 (1)
 
強欲が目に余る現在のスターバックスコーヒーにとって、ライセンス契約による出店は経営戦略に欠かせない。ライセンス契約によるスタバ出店は、日本ではJRグループやTSUTAYAグループ(CCC)などの6社が担っている。日本国内で2018年の1月から8月までにオープンしたスタバ店舗は計64店、うちライセンス契約店舗は約2割の13店舗である。本拠地であるアメリカ合衆国内では、既にライセンス契約店が累計で4割超となっている。スターバックスコーヒーは、インドのタタグループや香港のマキシムズグループや南アフリカのテイストグループなどとライセンス契約を結んで、アジア圏やアフリカ圏へ進出してきた。
 
この店舗展開におけるライセンス契約は、スターバックスコーヒーにとって大きな利点が2つある。まず1つは、進出先の競合他社と実質には直接の対決にならないこと。例えば、スタバが2000年に進出したオーストラリアでは84店あった直営店舗が不振で24店まで減り、2014年に地元の企業へ売却した際は「スタバ撤退」と騒がれたが、現在は40店超まで回復している。オーストラリアでセブン-イレブンなどを運営するウィザーズグループがライセンス契約に基いてスタバの店舗を再び増やす限りは、オーストラリアのカフェ業界は実質に国内企業と競っていくことになる。2018年8月31日、コカ・コーラはイギリスのコスタコーヒーを51億ドルで買収すると発表し、ウォール・ストリート・ジャーナルは「コカ・コーラ、スタバに挑む」などと報じたが、イギリス国内で挑まれるのは2008年からスタバとライセンス契約を結んでいる地元のSSPグループである。コスタコーヒーからみて海外におけるスタバとの最大の競合市場は中国だが、仮にスターバックスコーヒーと多角的提携を進めるアリババグループが先々で店舗運営のライセンス契約まで進めば、中国でコスタが戦う相手はアリババになるのだ。つまり、スターバックスコーヒーのライセンス契約による出店は、大国が中近東やアフリカで繰り広げている代理戦争の様相をコーヒーの世界で誘発していく、そこが「スタバで修羅場」となるのだ。
 スタバで修羅場 (3)
スターバックスコーヒーにとって、この店舗展開におけるライセンス契約にはもう1つの大きな利点がある。1店舗でも契約店がある限りはスターバックスコーヒーが看板代として6%超のライセンス料を取り続けるのだ。いや正確には、スタバはライセンス料を世界各国の現地法人から収奪するシステム自体をアメリカの本体である親会社からオランダの管理法人へ移している。実効税率の低いオランダでライセンスの収益を受け取り、この半分を無課税でアメリカの本体へ環流させるのである。他方で、各国でスタバ店舗を運営する現地法人はライセンス料支払いによって利益が圧縮され、地元では法人税の徴税機会が失われる。つまり、スターバックスコーヒーのライセンス契約による出店は、合法で嵩に懸かった国際的脱税であり、そこが「スタバで修羅場」となるのだ。
 
スターバックスコーヒーのライセンス契約に関してスタバ店舗以外での商品販売についてみれば、2018年8月28日、スタバはネスレに永久ライセンスを付与した。スタバは同様の商品販売のライセンス契約を1998年にクラフトフーズ(現:モンデリーズ)と結び、これを2004年に(前年に買収したシアトルズベストコーヒーのブランド利用も含めて)拡大して改めて10年間契約としたが、2010年にクラフト側の事業展開を不満として一方的に契約を解消して係争、2013年にスタバはモンデリーズ(旧:クラフトフーズ)へ賠償金を支払うことで和解した。この時にスタバが支払った賠償金は27億ドル、そして今般にネスレから受け取る契約料は71億5千万ドルである。このスターバックスコーヒーが食品業界の超大手企業まで手玉に取って焼け太りしていく様相、そこが「スタバで修羅場」となるのだ。
 
 スタバで修羅場 (2)
さて、スターバックスコーヒーのイタリア進出でライセンス契約を組んだ地元のペルカッシグループは、今後どうなっていくのだろう? イタリア1号店の「スターバックス リザーブ ロースタリー」が豪奢だとか高級だとか高額だとか、問題の本質はそこにない。展開する店舗は、せめて「イル・ジョルナーレ」(Il Giornale)であるべきだ、と私は提言する。以前にハワード・シュルツは、《イタリアのエスプレッソとの出合いがなかったら、スターバックスは今でも、地方の人気のあるコーヒー豆販売店のままだったかもしれない》(前掲『スターバックス成功物語』)と言っていた。その通りであり、それが正しい道だったのである。そうしなかったから、これまでもこれからも「スタバで修羅場」となるのだ。私は改めて望む、3年後のスターバックス創業50周年がパイクプレイス店のみであれ、と。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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