香りを求めて 2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年07月23日 01時00分]
「あなたに、大切な香りの記憶はありますか?」と訊ねられたならば、私は「茶とコーヒーの香り」と答えるだろう。生まれ故郷では牧之原台地の茶畑で遊びながら育ち、長じて後はコーヒーに生きているのだから。…そして、2018年7月15日、茶とコーヒーの香りを求めて、静岡県にある2つの博物館を車で訪ねた。
 
「ふじのくに茶の都ミュージアム」
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開設した金谷町の合併により島田市の施設であった「お茶の郷」には何度か訪れたが、静岡県に移管されて2018年3月24日に「ふじのくに茶の都ミュージアム」としてリニューアルオープンしてからは初訪。手前の商業館を隠して何としても奥の博物館へ誘おうとヒノキを吹寄せに組んだ壁、この露骨に厭気。そのくせ博物館の展示にあまり新味なく、「ふじのくに茶の都ミュージアム」は運営予算が膨らんだだけの改悪だった。
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企画展「知って得するお茶のヒ・ミ・ツ」
《さまざまなお茶の秘密をお子様向けに分かりやすくご紹介します》(ふじのくに茶の都ミュージアムWebサイト 企画展)という夏休み期間を意識した子供騙しの企画だが、玉露と青のりを並べてジメチルスルフィドの成分香を捉えさせるなど‘お茶の香りのかぎくらべ体験’はなかなか面白い。

松尾芭蕉が「駿河路や花橘も茶の匂い」(するがぢや はなたちばなも ちゃのにをひ)と詠み、ちゃっきり節を「唄はちやっきりぶし、男は次郎長、花はたちばな、夏はたちばな、茶のかをり。」と北原白秋が作詞して、広沢虎造が「旅ゆけば駿河の国に茶の香り」と謡ったように、茶には香りが欠かせない。それが茶山の薫りであれ、あるいは釜炒りや蒸しの匂いであれ、はたまた抽出した茶の香りであれ、茶にまつわる《大切な香りの記憶》が私にもある。緑茶の抽出液は‘茶色’を薄明るくした輝く黄色が本来であり、そこにこそ茶の香りがあった。近来の深蒸し茶のように淹れても香りが弱くて緑色の液体は、下品で記憶に残らない。今般に訪ねた「ふじのくに茶の都ミュージアム」は、まるで深蒸し茶のようだ。
 
「磐田市香りの博物館」
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2012年3月に訪館してから、2304日ぶりの再訪。体験コーナーでのコンピュータ診断「あなたのマイ・フレグランス」だけは相変わらず面白かったが、選んだ香りが前回と違うにもかかわらず診断の‘外面的イメージ’は全く同じ。その《昔から変わらないとよく言われるのではないでしょうか》という文言は、「磐田市香りの博物館」にこそ相応しい?
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企画展「コーヒーと香り展」
《過去(平成23年)の開催した企画展の中で、リバイバル開催の希望が最も多かった「新・コーヒーの香り展」です》(磐田市香りの博物館Webサイト カレンダー)などと言っているが、違うね。前回に観たのは「珈琲の香り展」で、今般は「コーヒーと香り展」。片岡義男ですら(?)、「コーヒーでいい」と「コーヒーがいい」の違いや「コーヒーでいいや」と「コーヒーでいいよ」と「コーヒーでいいか」と「コーヒーでいいな」の違いを深く考察している(片岡義男 「「コーヒーでいいや」と言う人がいる」/『珈琲が呼ぶ』 光文社:刊 2018)。ならば、「珈琲の香り展」と「コーヒーと香り展」との違いを単なる‘リバイバル’で片付けてはいけない。では、どこが違うのか? ‘協力’先が、UCCコーヒー博物館に加えて全日本コーヒー協会と北名古屋市歴史民俗資料館と高砂香料工業と高砂珈琲になった。だが、コーヒーの香りそのものに踏み込んでいない粗慢な展示は、《昔から変わらないとよく言われるのではないでしょうか》で残念。館内カフェテラスで、スズキコーヒー焙煎所の焙煎豆を使ったコロンビアコーヒー(メサ・デ・ロス・サントス農園)を飲んだ。そこには、コーヒーの香りがあった。
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 《アパートに帰ると、彼女はさっそくコーヒー豆をミルで挽いた。カリカリカリ、
  という音はとても軽やかで耳に心地よく、彼女には「それはいくらなんで
  もないんじゃない?」と笑われたが、豆を挽くだけでもコーヒーのふくよ
  かな香りが部屋にたちこめてきたような気がした。お湯を沸かしてコー
  ヒーをいれると、香りはさらに濃くなった。(略) コーヒーの香りが湯気に
  乗って鼻をくすぐる。いい香りだった。一口啜ると、その香りは体の内側
  から鼻に抜ける。》 (重松清 「コーヒーもう一杯」/キーコーヒーWebサ
  イト「書茶」初出 2008/短編小説集 『あなたに、大切な香りの記憶は
  ありますか?』 文藝春秋:刊 2008 に所収/重松清 『サンタ・エクスプ
  レス 季節風 冬』 文藝春秋:刊 2008 に収載) 
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今般に訪ねた博物館の企画展で、茶とコーヒーの香りを求めても満たされなかった。それでも、茶やコーヒーにまつわる《大切な香りの記憶》が私にもある。自宅に帰ってから淹れたコーヒーを一口啜ると、その香りに満たされた。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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