日本のカフェのみある記 前篇

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年07月08日 23時00分]
京都で‘京都コーヒー’の話題を私が耳にしたのは2018年5月12日、「嗜好品文化フォーラム」において。研究発表の中で「インドネシアで水出しコーヒーのことを何故だか京都コーヒーと言っていて…」という旨だが、発表する者も試問する者も皆が‘正体不明’の扱いだった。休憩時間に、「アレはアメリカのメリー・ホワイトというオバちゃんが書いた本に…」と関係者へ私が教示した。 「それ有名な本? それ(日本語の)訳本は?」と訊かれて、私は「去年このフォーラムに参加した旦部さんの本、『コーヒーの科学』と『珈琲の世界史』に登場するくらい重要。でも、和訳本は出ていませんよ」と答えていたのだが…それから39日後に、その本は出た。
 日本のカフェのみある記 (2)
 
『コーヒーと日本人の文化誌 世界最高のコーヒーが生まれる場所』(有泉芙美代:訳 創元社:刊 2018)は、文化人類学者のMerry White(メリー・ホワイト)が2012年に上梓した“Coffee Life in Japan”の日本語版である。私が原著を読んだのは2012年の夏だったが、当時の感想は「ふ~ん」程度であった。関口一郎の「カフェ・ド・ランブル」に続いて登場する自家焙煎コーヒー店が、田口護の「カフェ・バッハ」でも堀口俊英の「堀口珈琲」でもなくて、丸山健太郎の「丸山珈琲」であることに違和を感じる…そのように所感を旦部幸博と共にした憶えがある。だが、今般に日本語版の『コーヒーと日本人の文化誌』を読んで、また新たな心証を得た。
 日本のカフェのみある記 (1)
 
 《本書で述べるような喫茶店の感傷的な擁護者は、簡単に見つけることが
  できる。実際、筆者自身がその一人だと思われるはずだ。(略) 観察、
  経験、記憶の活用は人類学者にとって重要なツールである。とはいえ、
  これは回顧録ではない。四〇年以上にわたる観察から引き出された、
  日本におけるコーヒーと喫茶店の都市現象のあらましだ。》 (メリー・ホ
  ワイト 「はじめに」/『コーヒーと日本人の文化誌』 p.13)
 
メリー・ホワイトのような喫茶店の感傷的な擁護者は、簡単に見つけることができる。例えば、川口葉子もその一人だと思われるはずだ。両者は共に《喫茶店の感傷的な擁護者》、すなわちカフェマニアなのだ。《昨今のコーヒー文化のトレンド》が政治や経済によって生み出されるドロドロな実態については、調べようとも描こうともしないで遠ざけてしまう典型のカフェマニアなのだ。メリー・ホワイトは文化人類学者かもしれないが、『コーヒーと日本人の文化誌』が描いたものは《喫茶店の都市現象のあらまし》であり、つまり本書は‘description’(ディスクリプション)ではあっても真正の‘ethnography’(エスノグラフィー)ではない。だから、“Coffee Life in Japan”の中身は実のところ‘Cafe Life in Japan’であるし、日本語版の題も『コーヒーと日本人の文化誌』よりも本来は「日本のカフェのみある記」くらいが相応しい。
 日本のカフェのみある記 (3)
 
 《二〇一〇年にアメリカで出版された『Coffee Life in Japan』で、日本独
  自のカフェとコーヒーの文化が紹介されたことは、日本スタイルのコー
  ヒーと喫茶店の存在を広めただけではなく、日本製のコーヒー器具や
  日本のコーヒー業界への関心を高めることにもつながった。(略) さら
  に、ヨーロッパやアメリカのカフェスタイルを取り入れているかに見えて、
  実は独自のカフェスタイルをつくり上げていた日本のカフェへの関心を
  高めるきっかけにもなった。》 (有泉芙美代 「訳者あとがき」/『コー
  ヒーと日本人の文化誌』 p.204)
 
『コーヒーと日本人の文化誌』の原著“Coffee Life in Japan”で「ブルーボトルコーヒー」の‘京都コーヒー’(原著では‘Kyoto Iced Coffee’)が紹介されたことは、アメリカなど海外で滴下式の水出しコーヒーの存在を広めただけではなく、それが日本の京都で発祥したという誤解を高めることにもつながり、いわゆる‘コールドブリュー’の流行まで派生させた。あまつさえ、日本のコーヒーの様々な分野に‘独自’だの‘最高’だのと誤謬だらけの関心を呼んで、さらに、それを日本のコーヒー業界が自慢気に追従するという茶番まで引き起こした。《日本スタイルのコーヒーと喫茶店》に関して流言が飛び交う全ての責任を、メリー・ホワイトに負わせるわけにはいかない。しかし、その著作が端を発したこともまた事実。今般に日本語版の『コーヒーと日本人の文化誌』が出されて、愚鈍な日本のコーヒー業界がまたも「自慢高慢馬鹿のうち」へ向かう危険を誘っている。 〔続く
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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