時は休まない

ジャンル:学問・文化・芸術 / テーマ:art・芸術・美術 / カテゴリ:観の記:美面 [2018年06月25日 23時30分]
平成最後の「時の記念日」である2018年6月10日、セイコーホールディングスは銀座の和光の時計塔を「時を休もう。」と記した白い布で覆った。だが、時は休まない。鴨長明曰く、《ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し》(『方丈記』)と。
 時は休まない (1)
 
2018年6月24日、「時の記念日」から2週間後に愛知県あま市にある美和歴史民俗資料館を訪ねて、企画展「第28回 ときのきねんび展」を観る。
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宮崎照夫氏が所蔵して福岡晃良氏が修理・整備した古時計の動態展示。「イ 木 yasumi」展のプレイベントで遇った福岡さんに再会、解説を受けながら観て遊ぶ。チクタクボ~ンと鳴る明治期の振り子式の掛時計を観ながら、実家にあった時計のゼンマイをジコジコと巻いていたガキの頃を思い出す。東日本大震災の直前に入手して生き残った古時計の話など、モノが語るからの‘物語’に感興を覚える。産業振興などと称して「ものづくり」とかいうバズワードを濫用する社会を憾(うら)む。だが、時は休まない。
 
♪ 夕暮れの街角 のぞいた喫茶店…と三木聖子の「まちぶせ」(荒井由実:詞・曲)をカバーで歌った石川ひとみは、《「曲もいいし、詞の内容が私たちの中学、高校時代の青春にぴったり。私にもこういう経験がある》と言う(「365日 あの頃ヒット曲ランキング」/Web「スポニチアネックス」 2011)。石川ひとみが《のぞいた喫茶店》は、彼女が2歳から高校卒業まで住んでいた愛知県美和町(現:あま市)にあったのだろうか? そんなことを考えながら名古屋へ移り、三の丸に駐車して栄まで散策。
 
店舗の営業終了が6日後にせまった丸栄百貨店へ行き、その建物を増築設計した村野藤吾が昭和28(1953)年度の日本建築学会賞を受けた作品として改めて観て遊ぶ。
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 《村野は既存のストライプ状の外壁をそのまま上方へ伸ばし、ここに鳩羽
  紫色のカラコン・モザイクタイルを貼った。開口部にはガラスブロックを
  嵌め、それを細い方立で固定。各層を表す小庇付きのボーダーを方立
  と同じテラゾ(人造石研ぎ出し)で構成することで、端正なファサードに創
  りあげた。この外観は外光から商品を守る役割を担い、広小路通にリ
  ズムと賑わいを与えている。(略) 初層の壁面や柱、階段には特に豪華
  な大理石が貼られ、煌びやかな空間を演出している。村野は階段を各
  フロアを繋ぐ空間装置として扱い、手摺に至るまで心血を注いだ。また
  エレベーター扉には東郷青児による瀟洒な女性の絵が描かれている。
  (略) 現在、丸栄百貨店は、度重なる改築により当初の面影がだいぶ
  薄らいでしまった。》 (open architecture ⓐ 丸栄百貨店/村瀬良太
  :文責)
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「丸栄のあゆみ パネル展 ―伝えたい記録、残したい記憶―」を7階特設会場で観る。年表、写真、チラシ、制服、手提げ袋、ジオラマ、そして来客者と従業員の顔写真によるモザイクアート…何を見ても丸栄百貨店75年の歴史は虚しさを抱えている。江口忍氏は《丸栄を駄目にした最大の原因が「ギャル栄」》(「さらば丸栄 軌跡を追う」/『中日新聞』 2018年6月21日)などと言うが、違うね。1999年改装で渋谷109系化した「ギャル栄」どころか、競合するオリエンタル中村百貨店が名古屋三越と改称して「4M」が成った1980年よりもさらに昔、1950年代後半に経営危機に陥って興和グループの指揮下に入った時点で百貨店としての丸栄は栄華を失った。それから60年間続いた‘後退戦’…それが「丸栄のあゆみ」なのだ。だが、時は休まない。
 
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♪ 夕暮れの街角 のぞいた喫茶店…丸栄の3階にあるUCCカフェメルカードと地下1階にあるガロンコーヒーを覗いて胸の奥で別れを告げる。時に記念を求めても、時に記録を伝えても、時に記憶を残しても、時は休まない。
 
【2018年6月30日 追記】
 
丸栄最後の日が来た。
 丸栄最後の日 (1)
丸栄から190m、名古屋三越(栄店)の6階へ行き、シーシーエスコーヒーの出店(試飲販売会)で、まっちゃん(松岡浩史氏)と談話。
 丸栄最後の日 (2)
丸栄から215m、LACHIC(ラシック)の1階へ行き、珈琲工房ひぐちの出店(愛知トヨタのクラウンカフェ)で、マネージャ(樋口美枝子氏)と談話。

丸栄へ行き、百貨店の内と外をブラブラ、出たり入ったりウロウロ。
 丸栄最後の日 (3) 丸栄最後の日 (4)
 《一方、第二期に増築された西側の陶壁も興味深い。西日を避けるため
  に閉じた壁面を、色彩豊かなタイル画の陶壁とすることで異色の大看
  板とした、大胆なアイデアだった。使用したタイルは泰山タイルや大仏
  タイルなどの美術タイルで、抽象的なモチーフ画も村野の手になる。》
  (open architecture ⓐ 丸栄百貨店/村瀬良太:文責)
 丸栄最後の日 (5) 丸栄最後の日 (6)
建物の西側、増築第二期(1956年)の村野藤吾による陶壁を観上げる。丸栄へ入るサカエチカの突き当り、1999年の安河内敦子によるステンドグラスを観透す。地上へ戻れば、黄昏る丸栄に人混み。もうじき、ドアが閉まりシャッターが下りる。さらば、丸栄。時は休まない。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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