珈琲屋の人々

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年06月06日 01時00分]
テレビドラマ『プレミアムドラマ 珈琲屋の人々』(全5話/NHK BSプレミアム)の最終回(2014年5月4日)が放送された2日後、嶋中労氏より電子メールで問い合わせがあった…森光宗男氏と大坊勝次氏が対談した本について。存知ないと私が返すと嶋中さんはその日のうちに森光さんから聞き出して、《新潮社から秋口に出版されるらしい》と教えてくれた。だが、1年が過ぎ、2年が過ぎ、3年が経っても森光さんと大坊さんが《対談した本》は出なかった。二人が本にするために最初の対談をしてから1689日が過ぎて、ようやく『珈琲屋』という名で上梓された。その間に、大坊さんは店を失い、森光さんは命を失った。
 珈琲屋の人々 (1)
 
 《クールな森光さんと、キュートな大坊さん。ふたりの楽しそうな姿を思い
  浮かべるほどに、センチメンタルな気持ちがぐわっとこみ上げてきたり
  も、する。周知のことだけれど、「美美」のカウンターに森光さんが立つ
  ことはもうなくて、「大坊」のカウンターで大坊さんの手廻し焙煎を目に
  することも、もうない。》 (江部拓弥 「月のない真夜中のようなブラック
  さ」/『波』 2018年6月号 新潮社:刊)
 
『珈琲屋』 (大坊勝次・森光宗男:著 小坂章子:取材/新潮社:刊 2018)
 珈琲屋の人々 (2)
  
『珈琲屋』の特大帯には、《珈琲という共通語でつながるすべての人に贈る》と背文字がある。しかし、江部拓弥氏は《旧知の仲だというふたりが語り合うのは、珈琲のことじゃなくて、珈琲屋をめぐること》(前掲「月のない真夜中のようなブラックさ」)と捉える。どちらにしても、森光さんと充子夫人と大坊さんと惠子夫人、「珈琲屋の人々が珈琲の話をしている」本である。そして、《…ふたりは大いに意気投合したかと思えば、まったく嚙み合わない話をずんずん進めたり、ときには押し黙ったり…》(江部/前掲同)する。私には、この《まったく嚙み合わない》ところが面白い。
 
 《以前、カウンターに集った常連と、「森光さんは素数が好きだった」とい
  う話で盛り上がった。「焙煎でも素数が大事なんですよ。不思議とそう
  なっているんです」と充子さんが言うので、目が点になった。》 (「森光
  充子さんのこと」/『珈琲屋』)
 
 《ただね、この人は自分の中に持っている核の部分を常に出さないんで
  す。出さないでじっと持っているから、誰もわからないってだけなんで
  すよ。》 (大坊惠子:談 対談3「終日「珈琲美美」にて」/『珈琲屋』)
 
 《森光さんには世界がありました。その先に珈琲の神がありました。世界
  中でそこをめざそうというビジョンがありました。(略) 森光さんは出掛
  ける、私は残る、ということが向き不向きだったのかなあ。(略) 社会
  の風は通り過ぎる。私は取り残される。そうとばかりは言えないけれど、
  結果として、そういう面はあったかもしれません。》 (大坊勝次:巻頭言
  /『珈琲屋』)
 
 珈琲屋の人々 (3) 珈琲屋の人々 (4)
今般に『珈琲屋』を読んで二人の楽しそうな姿が思い浮かびはしたが、私には《センチメンタルな気持ちがぐわっとこみ上げてきたり》はしない。森光さんは『モカに始まり』(手の間:刊 2012)の森光さんのままであり、大坊さんは『大坊珈琲店』(私家版 2013)の大坊さんのままである。キュートな森光さんと、クールな大坊さん。私に‘珈琲の神’は見えないし要らない。私は取り残されることが不向きだとは思わない。刊行記念写真展「珈琲屋 大坊さんと森光さんと」を観ても、その私の想いは変わらなかった。『珈琲屋』は、「珈琲屋の人々が珈琲の話をしている」本である。
 
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コメント

No title
嶋中労 URL [2018年06月09日 08時16分]

帰山人様
ボクも予約して買いました。そして読んだ。
ウーン……not so badって感じかな。
理屈っぽくてよくわからないところもあるな。

芸というのは自らが苦心談を語り出すとおかしな
具合になるような気がする。秘するが花なのかも。

to:嶋中労さん
帰山人 URL [2018年06月09日 11時09分]

そもそも「伝えなきゃ」って力んだ時点で具合はおかしくなる。さらに取材で「若き後進に一言」って煽った時点で品位がうしなわれる。有り体にいえば、必読の本じゃありませんね。
しかれば、秘事といふことをあらはせば、させることにてもなきものなり。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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