再発見の過熟

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年05月15日 01時00分]
コーヒーの世界を再び発見する者は、‘フラヌール’(flaneur:風来人)なのか? それはナチュラル(natural:自然)なのか? それともアンナチュラル(unnatural:不自然)なのか? 日本コーヒー文化学会(JCS)の焙煎抽出委員会による分科会催事、その集会に参加するべく東京へ。昨秋の分科会催事は欠席したが、その間にコーヒーの世界に‘再発見’(rediscovery)を求める遊びは熟しただろうか? いや、熟し過ぎたかもしれない、つまり「再発見の過熟」…
 
2018年5月13日
 
 再発見の過熟 (1) 再発見の過熟 (2)
前日は自動車を走らせて京都へ、今日は鉄道で東京へ。まずは、チョコレートケーキとイタリアンブレンドで朝の「カフェ・バッハ」に憩う。そこへ作りたてのフランクフルタークランツが出てきて、これも当然に食べ、当然に美味い。トレセンへ行って中川文彦氏と談話してから、三ノ輪から都バスで日光街道を北上、催事の会場である富士珈機の東京支店セミナールームへ。
 
ディスカバリー焙煎機の実技を交えた集会に私が参加するのは、2015年2月(再発見の風来)、2015年11月(再発見の逆襲)、2016年3月(再発見の覚醒)、2016年9月(再発見のコク)、2017年3月(再発見の新梢)に続いて6回目、テーマは「新ナチュラルコーヒーの焙煎を考える」。
 再発見の過熟 (3)
だが、今般はまず浅野嘉之氏の講演「最新アジア(上海)コーヒー事情」を聴く。以下、備忘語録。上海で日本人が開いた自家焙煎コーヒー店には、欧米人、日本人、アッパーの中国人、中産の中国人の順で客が来る。焙煎豆は工場労働生産物扱いでショップローストはダメ、そこでやるのは勇気ある状態(査察の日は休業)。中国の各都市部ではファースト・セカンド・サードウェイブが同時に進行している。
 再発見の過熟 (4)
次に、山内秀文委員長のプレゼン(課題提示)とオリエン(進行説明)。その後に19人が5グループに分かれて、ニカラグアとコロンビアとコスタリカとエチオピア2種類(イルガチェフェとゲイシャ)の5つのナチュラル(乾式精製)コーヒーをディスカバリー焙煎機で焼く。私は坪内信敬氏・木村泉氏と組んで4釜を焙煎。全グループが(豆種は被らないように振り分けて)1回目は1ハゼ終わり(約摂氏203度)、2回目は2ハゼ始まり(215~220度)を目安に焙煎度合を揃えて「一本焼き」。以後は焙煎の度合に縛りがないので、私のグループは「一本焼き」で深煎りにした(3回目は233度、4回目は234度)。
 再発見の過熟 (5)
全20釜の焙煎豆を抽出して全員で試飲。生豆の段階で予想した通りに、ニカラグアは発酵臭が最強、続いてコスタリカ、エチオピア(イルガチェフェ)、コロンビアの順に発酵臭が減じていく。エチオピア(ゲイシャ)は発酵臭よりもゲイシャフレイバーが勝って出た感じ。ワイワイと談じながら挑んでガヤガヤと談じながら味わって盛会となるのは毎度だが、ナチュラル(乾式精製)ばかりの焙煎遊びはやはり熟していた(?)。閉会して会場を去り、参加者の半数が「ジェントル・ビリーフ」へ移動して懇親会。賑やかに飲んで食べて喋って、浅野さんに淹れてもらったイタリアンブレンドを喫して別れを告げ、坪内さんと一緒に地下鉄と新幹線を乗り継いで帰途に着く。
 
〔余考〕
ボイア(Bóia)と呼ばれる過熟なコーヒー豆は、国際コーヒー機関(ICO)による国際規格(ISO)3509「コーヒーとコーヒー製品:用語集」(1984年制定/1986年改定/2005年再改定)に拠れば、‘normal bulk coffee’(通常のバルクコーヒー)すなわちコモディティ(コマーシャル)コーヒーの原料として位置付けられている。
 Bóia or Café Bóia: Normal bulk coffee that has dried or
 partially dried before harvest to the point where it is
 positively buoyant in water.(ICO International Standard
 ISO 3509)
それがどうだろう、近来のボイアは「樹上完熟‘させた’コーヒーチェリー」としてスーパーだのプレミアムだのと仰々しい冠が付されて、スペシャルティコーヒーの原料へと変容した。このボイアの例でも、呼称・転向・実相という3つの「アンナチュラル」(unnatural:不自然)が重なっているのである。
 再発見の過熟 (6)
 
今般の分科会催事で山内さんは、ナチュラル(乾式精製)コーヒーの新旧について「成分(特に香気成分)の違いは?」「品種、生産国の向き・不向き」を課題提起した。しかし、催事でコーヒーの焙煎や試飲をしながらでも、新ナチュラルに対する私の「アンナチュラル」感は変わらなかった。旧来の国際規格(ISO)に照らしていえば、ハニー精製は湿式精製(ウェットプロセス:wet process)となり、ダブルパス精製は乾式精製(ドライプロセス:dry process)なのか湿式なのか判然としない。そして、新ナチュラルはハニー精製やダブルパス精製に類して並べられるべき、発酵による意図的な‘着香’コーヒーである。つまり、ナチュラルコーヒーの新旧を対照しようにも、作為で‘着香’し‘味付け’された新ナチュラルコーヒーは、旧来の国際規格(ISO)の分類が通じないまでに抽象水準が「アンナチュラル」へとズレてしまったのである。商品価値や市場価値を求めて新たに香味付け‘された’コーヒーが新ナチュラルであり、その意図や作為の過熟は香味の「コーヒーらしさ」を変容させるほどアンナチュラルだ。そう「再発見の過熟」に想った。
 
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コメント

ナチュラル迷走
主催者 URL [2018年05月16日 18時02分]

お疲れ様でした。
5つも新ナチュラル?を比べる機会はないので、個人的に良い経験。
でも、自宅に送り返した生豆を消費するのはしんどいですよ。
イエメン・モカ(前回)→新ナチュラル?の経路なんだけれど、どんどんガストロノミーからは離れて、ジャンクの森を迷走ですね。森にいいものが落ちていればいいんだけど(猫の糞なんかゴメンですよ)。
そもそも初めは、モカに帰れ(誰も言っていない?忘れた?)、だったのに、目的地がわからなくなってしまったか。
一方のモカ本体は妙に綺麗になって、色気が無くなり、大丈夫か?
それにしても、ヤンニ・ハラーは素晴らしい。とことん深く煎ってもほのかな気品のある(こういう価値観は新ナチュラルにはない)ワイン+花の香りを失わないし。こんなものにたどり着いてほしい、と願う主催者でした。
また、次回もよろしく。

to:主催者さん
帰山人 URL [2018年05月17日 02時50分]

おつかれさまです。 襟立博保68歳、標交紀67歳、ヤンニ・ジョーガリス68歳、森光宗男68歳、いずれも逝った齢です。 どうしてヤンニハラール・モカを素晴らしい、と思うのか? こういうものにたどり着いてほしい、と思うのか? そういう齢になったからです。まだまだ生き延びてくださいよ。
ヤンニハラール・モカはもちろん美味しいけれど、乾式精製のコーヒーを考えるに、私は「ブラジルに帰れ」かな。アルタモジアナ地区のテーハプレタ農園の乾式ブルボンを焼いて遊んでいます。この豆、ポリッシャーもかかっていないので表面はデコボコザラザラのままですが、新ナチュラルのように皮を被ったものなんて一つもない。ボイアでもないから濃い香味なんて何もしない。スッカスカの豆も平気で混じっているのでソーティングが大変。最近のスペシャルティ的評価を受ければ、「こんなん何の香りもしないし無味じゃん」と言われるであろう豆です。それでイイんですよ、コーヒーってのはこういうものだ、と私は気にいってます。
またよろしくです。

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Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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