アンナチュラル

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年05月02日 01時00分]
「最近のナチュラルに関して何か意見は?」と山内秀文氏から問われた。「新ナチュラルコーヒーの焙煎を考える」が日本コーヒー文化学会の焙煎抽出委員会による次回(2018年5月13日予定)の催事のテーマだからだ。では、UCIラボ(Unnatural Coffee Investigation Laboratory:不自然珈琲究明研究所)の一員にでもなったつもりで、少し考えてみよう。
 アンナチュラル (1)
 
 《香りがフルーティで、豆本来の味がしっかり出るのが「ナチュラル」、サッ
  パリあっさり飲みたいときは「ウォッシュド(washed)」を選ぶといいです。
  玄米と白米、みたいな違いですね。豆を買うときにそう伝えたら『お、こ
  の人はコーヒーに詳しいな』と思われますよ(笑)。》 (平岡佐智男 「「ナ
  チュラル」だけは覚えて! コーヒー芸人の「初心者に知ってほしいコー
  ヒー豆の話」」/Webサイト『ROOMIE』(ルーミー) 2018年4月26日)
 
この《香りがフルーティで、豆本来の味がしっかり出るのが「ナチュラル」》という平岡佐智男の言こそが、最近のナチュラルコーヒーに関するバカげた妄執をハッキリ示している。そこには3つの不自然(アンナチュラル:unnatural)が重なっている。呼称の不自然、転向の不自然、実相の不自然である。ウェッ
 
 《「乾式精製は以前はwashed(水洗式)との対比からunwashed(非水洗
  式)とも呼ばれていたのですが、unwashedという言葉が〔洗ってない
  (=汚れた)〕という負のイメージにつながるため、ブラジルなどの乾式精
  製をおこなう生産者たちはこの言葉の使用をいやがり、むしろ〔自然=
  天然〕という、どこか良質のイメージをもった“ナチュラル”という言葉を使
  うようになったんです。で、最近は高級なゲイシャ種にもナチュラルなん
  ていう商品も出てきた」(旦部氏)》 (田口護・旦部幸博:著 嶋中労:文
  『コーヒー おいしさの方程式』 NHK出版:刊 2014)
 
乾式精製(ドライプロセス:dry process)は、湿式精製(ウェットプロセス:wet process)との対比として言い換えるにしても、「アンウォッシュト」(非水洗式)と呼ばれていたのが本道である。「ナチュラル」という呼称は、作為として‘アンナチュラル’である。‘アンナチュラル’(極悪非道)なアメリカのクリーンカップ派による乾式精製への蔑視、それへ抗するために生産側のブラジルが‘アンナチュラル’(気取り)で称した改悪が「ナチュラル」だからだ。この呼称の不自然を解してこそ、《お、この人はコーヒーに詳しいな》といえる。ウェッ
 
 《「いずれにしろ、スペシャルティコーヒー初期の“クリーン原理主義”があ
  る面行きすぎてしまい、その反動としてナチュラルやハニーといった、割
  と極端な嗜好へ流れていったのではないかと思われます」(旦部氏)》
  (田口護・旦部幸博:著 嶋中労:文 『コーヒー おいしさの方程式』 NHK
  出版:刊 2014)
 
 《良質のコーヒーと言われるものは、「モーレ」に格付けされたものである。
  アラビカ種のすべてのコーヒーは、適当に成熟した時(赤熟果実)に採
  収し、適当に調製される限り「モーレ」(ソフト)のコーヒーを得ることが
  できる。(略) であるからセレージャを採収し、デスポルパードとするな
  らば醗酵はおこり得ず、「モーレ」を得られるわけであるが、実際には
  採集問題に突き当たって実行が困難である。》 (堀部洋生 『ブラジル
  コーヒーの歴史』 いなほ書房:刊 1997/原著1973)
 
最近のナチュラルコーヒーへの嗜好が、ジョージ・ハウエルに代表されるクリーンカップ派に対する反動としての転向であることは論を俟たない。しかし、この転向にも無理な‘アンナチュラル’がある。例えば、スペシャルティコーヒー以前のブラジルにおいてソフト(モーレ:mole)の香味とは、発酵を避けて《適当に調製される》ものであった。だから、後に《実行が困難である》ことを克服して需要に応えたものが、早期のパルプトナチュラルである。だが、クリーンカップ派はもとよりこれに反動した転向派も、このソフトな「モーレ」を良しとせずに排した。彼らの関心は乾式精製としてのナチュラルコーヒーではなくて発酵の肯定へ指向したのであり、この反動の転向もまた‘アンナチュラル’(極悪非道)となった。この転向の不自然を解してこそ、《お、この人はコーヒーに詳しいな》といえる。ウェッ
 
 《旦部氏が言うには、乾式だとクエン酸やリンゴ酸といった有機酸の量が
  やや減るという。逆に湿式はこれら有機酸の割合が高く、フレッシュフル
  ーツのような酸味が出やすくなる。(略) 乾式にもブラジル系やイエメン
  系、中米系によって微妙な違い(多くは乾燥時間の遅速による)はある
  ものの、概して“チョコレート&ナッツ系”の香りがする。対して湿式は
  “フルーツ&フローラル系”の香りが出やすい、とまずは覚えておくとい
  い。(略) 浅めに煎るとフレッシュフルーツのような酸味が立ち、深めに
  煎るとフェノール系のスパイシーな香りが立つ──これが「湿式」の特徴
  だ。》 (田口護・旦部幸博:著 嶋中労:文 『コーヒー おいしさの方程式』
  NHK出版:刊 2014)
 
スペシャルティコーヒー以前には、より《香りがフルーティで、豆本来の味がしっかり出る》のは「ウォッシュト」(washed)と称される湿式精製である、と言われていた。先の平岡佐智男の言とは真逆である。だとすれば、最近のナチュラルコーヒーは昔の湿式精製よりも《「湿式」の特徴》を有するものに激変したのか、或いは評するヒトの官能体系が全く変わってしまったのか、またはその両方なのか? 真実はこの3つの中にしかないハズだが、これを明快に解いた者を私は知らない。いや、最近のナチュラルコーヒー志向は、かつての《ブラジル系》乾式精製が追っていたソフト(モーレ)とは真逆の方向にあり、それはハニープロセスの延長上にある。もはや、ホワイト・イエロー・レッド・ブラックというハニー分類の先にパーフェクトハニー(?)とでも言うべき「ナチュラル」があるかのように。この実相の不自然を解してこそ、《お、この人はコーヒーに詳しいな》といえる。ウェッ
 
 アンナチュラル (2) アンナチュラル (3)
漫画『NATURAL』(ナチュラル/白泉社『LaLa』掲載 1995-2001)を描いた成田美名子は、《ストーリーは自分の中にあるもので、極力自然に自然につくるようにしています》と語った(Webサイト『art drops』 インタビュー後篇 2009)。漫画『NATURAL』は後続のスピンオフ作品『花よりも花の如く』(白泉社『MELODY』掲載 2001-)と共に名作であるが、《極力自然に自然につくる》という言は作為として‘アンナチュラル’である。その‘アンナチュラル’に成田美名子自身が気付いているのか解らないのと同様、最近のナチュラルコーヒーが「ハニーよりもハニーの如く」な‘アンナチュラル’であることにコーヒー界が気付いているのか、私には解らない。それでも、《「ナチュラル」だけは覚えて!》などというバカげた妄言の根絶を、UCIラボ(不自然珈琲究明研究所)の一員にでもなったつもりで今後も目指そうと思う…「不自然なコーヒーは許さない」。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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