なか野庵の想い出~(2)蕎麦の山

ジャンル:グルメ / テーマ:うどん・そば / カテゴリ:食の記:回顧編 [2009年03月27日 03時00分]
なか野庵は馴染み客が多数を占める店ではあったが、中には「通」や「マニア」を自認するような蕎麦好きも訪れる。こうした初見は、この店の蕎麦をたぐる以前に度肝を抜かれる。
 
まるで反比例の法則が業界の慣わしかのように、「旨い蕎麦」ほど「量は少ない」というのが半ば常識である。したがって、「味見や腕見」だとか「小腹ふさぎ」だとかでは無くて、昼食や夕食、「食事」として蕎麦を食すならば、大盛りや追加は前提となる。しかし、なか野庵ではこの常識が見事に裏切られる。多い。圧倒的に多い。
 
事前に多いと聞かされていた私でさえ、当初は実際の盛りを見て唖然とした。以後、私がこの店を知人に紹介する場合は、「いいか、蕎麦は滅法旨いが、量も多いぞ。だから最初は大盛りを注文するな!ああ、どのメニューでもだ。もし不足なら次から大盛りにすればよいから・・・」と、言っていた。しかし、「旨い蕎麦ほど量は少ない」という反比例法則の常識にとらわれ、私の忠告を無視し、結果口を押さえ腹をさすり討ち死にする者も後を絶たない。
 
なか野庵で「大ざる」(ざるそばの大盛り)を注文する。正統な直径21cmの丸型(ざる並盛は角型、もり並盛は長方形)の「ざるせいろ」に盛られて出てくる。盛られた蕎麦でせいろの置き簀が全く見えない。「もう一筋蕎麦を乗せると、盛った蕎麦の山から落ちる」ギリギリの蕎麦の山。否、実際には「せいろ」が置かれている盆に蕎麦がこぼれ落ちていることも・・・これが、この店の「大ざる」である。
 
どうしてこんなに盛るのか?を大将に尋ねたことがある。曰く、「そりゃあ、洒落たお大尽が食う蕎麦もあるけどよォ、俺んとこは街中で会社員が食事に来るんだろ?そうしたら、きちんと食事になる分を出すのが筋ってぇもんだろが、違うか?」違わない。全く正論である。ありがたい正論だ。
 
しかし、使っている蕎麦粉は信州大町のK製粉所の水車石臼引で最高品。東京あたりでは同じ粉を使って、5分の1程度の量で出す(こちらが普通)。原価無視というか、価格破壊というか、なか野庵は非常識である。さすがに製粉所から「そんなに(一人前に沢山)使ってもらったら困る」と言われたことがあるらしいが、大将は「一旦俺が買った粉だ。どれだけ使おうが俺の勝手だ!」と全く意に介さなかったらしい。
 
「何だ、旨い蕎麦屋とか言っているが自家製粉じゃあないのか」と思うのは、大将とおっかさん夫婦だけで毎日昼夜営業し続け、「大ざる」値上後800円でやってきた蕎麦屋であることから見て筋が違う。そして、その辺の自家製粉を気取った半端な蕎麦屋よりもなか野庵の蕎麦自体が遥かに旨いのは、どういうわけだろうか。
 
店の立地と役割を読んで「きちんと食事になる分を出すのが筋」という正論で、量と質を両立させていた奇特な蕎麦屋を、私は未だ他に知らない。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
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