怒りは笑いを来す

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2018年02月07日 01時30分]
エビング広告社のレッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ:演)は、“A Good Man Is Hard To Find”(善人はなかなかいない)を読んでいた。
 怒りは笑いを来す (1)
 
 《犯罪のほうは問題じゃないんだ、人殺しでも、タイヤをはずして盗んでも、
  なにをしようとね。どうせおそかれ早かれ、自分のしたことは忘れてしま
  って、ただ罰を受けるだけになるんだ。》 (フラナリー・オコナー 「善人
  はなかなかいない」/『善人はなかなかいない』 横山貞子:訳/筑摩書
  房:刊 1998)
ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド:演)は、後悔の自責をすり替えて他人を攻める気狂(きちが)いクソババアである。STILL NO ARRESTS?…
 
 《もし、イエスが言ったとおりのことをやらなかったとすれば、おれたちとし
  ては、残されたわずかな時間を、せいぜいしたいほうだいやって楽しむ
  しかないだろう──》 (フラナリー・オコナー 「善人はなかなかいない」
  /前掲書) 
ビル・ウィロビー(ウディ・ハレルソン:演)は、身勝手な善良を演じて独りよがりに自滅していく末成(うらな)りグズ保安官である。HOW COME, CHIEF WILLOUGBY?…
 
 《人生に疑問をもたずに一生すごす人もいれば、なぜ人生がこうなのか、
  わけを知りたがる人もいるもんだ。》 (フラナリー・オコナー 「善人はな
  かなかいない」/前掲書)
ジェイソン・ディクソン(サム・ロックウェル:演)は、求めるべき正義も判らない劣等と愚鈍の鼻摘(はなつま)みバカ巡査である。RAPED WHILE DYING…
 
 怒りは笑いを来す (2)
ミルドレッドとウィロビーとディクソンの人生は‘ebbing’(漸次的下降中)である。だから、3つの看板広告が掲げられた田舎町は‘Ebbing’(エビング)だったのかもしれない…
 
『スリー・ビルボード』(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri) 観賞後記
 
 《私の作品では、人物たちを真実に引き戻し、彼らに恩寵の時を受けいれ
  る準備をさせるという点で、暴力が不思議な効力を持つ。人物たちの頭
  は非常に固くて、暴力のほかに効き目のある手段はなさそうだ。真実と
  は、かなりな犠牲をはらってでもわれわれが立ち戻るべきなにかである。》
  (フラナリー・オコナー 「自作について」/『秘義と習俗』 上杉明:訳/春
  秋社:刊 1999)
 
 怒りは笑いを来す (3)
このフラナリー・オコナーの言は、映画『スリー・ビルボード』をつくったマーティン・マクドナー(脚本・監督・製作)の企図と読み換えてもよいだろう。その企図を舞台演劇の劇作家らしい脚本に載せたマーティン・マクドナー、馬小屋自殺や鹿遭遇や兎スリッパ問答などの‘エビング’な俗っぽい演出には興を殺がれたが、結果として傑作。
 
 怒りは笑いを来す (4)
この『スリー・ビルボード』という作品では、‘anger begets anger’(怒りは怒りを来す)という真実だけが《われわれが立ち戻るべきなにか》を示している。ウィロビーは末成りのまま死に、ディクソンは鼻摘みのまま暴力の対象を人種から犯罪へすり替え、ミルドレッドは気狂いのまま孤軍奮闘から共闘へ移る。それらは皮相な手段の変更であって、‘改心’などでは全くない。また、救済だの啓示だの恩寵だのと言っても、それらは神の意志そのものではなくて、人間の欲を投影したいわば3つの看板広告でしかない。‘神の恩寵’は神のものであり、‘怒りは怒りを来(きた)す’という真実は人のものであり、この二つに繫がりはない。神は無責任であるが、人間はさらに無責任なのだ。「善人はなかなかいない」という意味はそういうことであり、ブラックコメディ映画『スリー・ビルボード』の効き目もそこにある。怒りは笑いを来す。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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