オン・ザ・ホライズン

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年01月14日 01時00分]
HORIZON LABO」(ホライズンラボ)の岩野響が生まれた2002年3月、一人の男が日比谷公園で焼身自殺した。その男、檜森孝雄を追悼する本が3年後に刊行された。死の前月に『黒 La Nigreco』(N-ro.8 第2次創刊号)で掲げられた遺稿(72・5・30リッダ覚え書き)から、追悼集は『水平線の向こうに』と題されていた。水平線は、哀しみであり、憤りであり、兆しである。
 
 《まだ子どもが遊んでいる。 もう潮風も少し冷たくなってきた。 遠い昔、能代
  の浜で遊んだあの小さなやさしい波がここにもある。 この海がハイファに
  もシドンにもつながっている、そしてピジョン・ロックにも。 もうちょっとした
  ら子どもはいなくなるだろう。》 (かもめの広場の噴水前に残された遺書)
 
群馬県の地元紙『上毛新聞』が選んだ「2017年もっとも“反響の大きかった”ニュース」は、「ぼくにしかできない店できた 味覚生かしコーヒー豆焙煎 発達障害の15歳・岩野さん」(2017年5月5日)だった(Webサイト「文春オンライン」 2017年12月30日)。
 
 《4月に開店した店は客が殺到して交通渋滞が頻発したため9月に閉鎖し、
  通信販売と渋谷ヒカリエ(東京)での販売に切り替えた。現在は会員制交
  流サイト(SNS)などを通し、顧客の声を聞くのが励みで、「豆の個性と自
  分の表現、お客さんが求める味が“交じり合う一点”を追究する焙煎をし
  たい」と話す。今後の目標は「喫茶店文化やおいしいコーヒーの入れ方
  などを紹介する個展を開き、コーヒー文化を国内外で伝えること」という。》
  (「15歳で焙煎豆店 軌跡明かす2冊 発達障害の岩野さん」/『上毛新
  聞』 2017年12月19日)
 
 オン・ザ・ホライズン (1)
『15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることからぼくにしかできないことへ』
(岩野響:著/KADOKAWA:刊 2017)
 
 オン・ザ・ホライズン (2)
『コーヒーはぼくの杖 ~発達障害の少年が家族と見つけた大切なもの』
(岩野響・開人・久美子:著/三才ブックス:刊 2017)
 
岩野一家による2冊の本は発刊の時期も判型も価格も同じだからなのか、内容もほぼ同じで発売前に重版決定も同じでカバーを外せばどちらがどちらなのかわからない。だが、なぜ2冊なのか? 「ホライズンラボ」のコーヒー豆はWebストア「毎日が発見ショッピング」で取り扱われている。「毎日が発見ショッピング」の運営会社は株式会社KADOKAWAの連結子会社(資本8割)であるから、知名の出版社から本を出すとすればKADOKAWA以外にはない。三才ブックスの方は、出版事情が私にはわからない。
 オン・ザ・ホライズン (3)
 
 《響くんのご両親が、「学校では輝く場所がない。ならば、家の中でできるこ
  とをやって、自信を取り戻させたい」と気づき、実行されたのは奇跡的な
  ことです。(略) 響くんには幼少期からこだわり傾向があったとのことです
  が、コーヒー焙煎にのめり込む点では、よい方向に花開いていると思い
  ます。じつはヨーロッパでは、ワインの醸造家にアスペルガー症候群傾
  向のある人が多い、という研究結果もあります。》 (星野仁彦:解説/
  『15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることからぼくにしかでき
  ないことへ』 pp.176-178)
 
岩野一家の本に解説を寄せた星野仁彦は、自身も発達障害の当事者であると称していて、また、5年生存率0%のがんをゲルソン療法で克服したと嘯いていることでも著名である。だが、寄せた解説ではコーヒーの摂取制限やコーヒー浣腸の奨励に触れられていない。いずれにしても、ゲルソン療法で奇跡的に(?)生きている星野仁彦が《奇跡的なこと》と評している岩野一家、いわゆる「機能不全家族」からは程遠い‘健全な’家族のようだ。《15歳のコーヒー屋さん》は、《響くんのご両親》にしかできないことなのかもしれない。こうした点においても、岩野一家の本は発達障害の本であっても根っからのコーヒー本ではない。
 
 《仮に響の興味の対象が変わって、別のことを始めたくなってもいいな、と
  じつは思っています。だからお店の名前も「HORIZON LABO」。研究所
  です。もしかしたら、この研究所兼お店をオープンしたことが、響にとって
  いちばんいい選択ではないのかもしれません。いまはこれが合っている
  けれど、これからまた別の生き方があるかもしれない。あえてそう思うよ
  うにしています。》 (母・岩野久美子/『15歳のコーヒー屋さん 発達障害
  のぼくができることからぼくにしかできないことへ』 pp.163-164)
 
なぜ、「ホライズンラボ」が“反響の大きかった”ニュースになったのだろう? 仮に岩野響が15歳の健常者であったならば、巷間はどう反応しただろう? 仮に岩野響が65歳の発達障害者であったならば、メディアはどう取り上げたのか? 仮に「HORIZON LABO」がコーヒー屋ではなくて焼きまんじゅう屋であったならば、コーヒー業界はどう接しただろうか? 私は《あえてそう思うようにして》、岩野響のコーヒーに好奇の目を向けている。「ホライズンラボ」は、《これからまた別の生き方があるかもしれない》‘on the horizon’(オン・ザ・ホライズン)なのだ。
 
 ♪ 水平線の 終わりには 虹の橋が あるのだろう
  誰も見ない 未来の国を 少年は さがしもとめる
  広がる海の かなたから 何が呼ぶと いうのだろう
  希望の星 胸にのこして 遠く 旅だつ ひとり ♪
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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