コーヒーケルベロス

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2018 [2018年01月01日 00時00分]
2018(平成30)年の干支は「戊戌」(ぼじゅつ)。「戊」(ぼ)は土の陽干にして茂生を表し、「戌」(じゅつ)は土の陽支にして滅尽を示す。重陽の比和となる戊戌、陽は昇り、陽は降る。コーヒーもまた浮沈の嗜好品であり、進退を繰り返す飲料である。五禁で土行は苦、その苦を味わうにコーヒーは相応しい。戊戌2018年の新春を迎えて、かつてから行く末まで、コーヒーは‘Kerberos’(ケルベロス:地獄の番犬)から逃れることができない。いや、コーヒー自体がケルベロスなのかもしれない。
 コーヒーケルベロス (1)
 
ある寒い日の東京のカフェ、映画監督(レジスタ)のアントニオ・モレッリは、再会したチェリスト夏美に《何を探してるんですか?》と訊かれて、《犬だ》と答える。一週間に3回も見た首輪をしているが捨て犬のような耳が半垂れの犬を探し出して、「のら犬のいない街には住みたくない」という題でドキュメンタリーをつくろうとしていた。その犬が通るのを窓越しに見かけたモレッリは、カフェを飛び出して犬の後を追う。雑居ビルの階段を屋上まで駆け上がると、雪が降る中で倒れている男の死体に犬が寄り添っていた。モレッリは夏美に《何かあったの?》と訊かれて、《警察を……いや、とりあえず戻って、もう一杯コーヒーを飲もう》と答えた。(豊田徹也 漫画『珈琲時間』 第9話「Where are you」より/講談社:刊 2009)
 コーヒーケルベロス (2)
 
60年(1元)前の戊戌1958(昭和33)年のコーヒー。ベネズエラのホセ・マンソ・ペローニが‘Moliendo Café’(モリエンド・カフェ:コーヒーを挽きながら)を作曲し、ラテンアメリカコーヒー協定が参加15ヵ国で締結され、パカマラ(パーカスとマラゴジッペの交配種)とカチモール(カトゥーラとHdTの交配種)が作出され、日本から南米へコーヒー移民を運ぶ「あるぜんちな丸」(2代目)が竣工と就航した。この年、日本の南極地域観測隊は昭和基地に樺太犬を置き去りにした。日本のコーヒーは物品税も関税も残っていて輸入が自由化されていない時代、コーヒーもまた鎖を引きちぎろうと野良犬のように哀しく歌っていた。
 
「街頭に溢れていた犬が追われ、繁栄を求めて人々が足並みを揃え始める一方、これに抵抗するものたちが圧し潰され、そして忘れ去られようとしていた時代。消え去っていった叛乱の記憶の中にあって、当局の解体命令に抗して決起した一部の治安部隊、わけても〈ケルベロス〉の俗称で知られた精鋭たちの闘いは、当局の徹底的な弾圧の前に壊滅しながらも、この時代の終幕を飾るに相応しい騒乱事件としてひときわ異彩を放った。主人を見失った番犬たちの叛乱、人々はそれを〈ケルベロス騒乱〉と呼んだ」 (押井守 映画『ケルベロス 地獄の番犬』〈Stray Dog:KERBEROS PANZER COP〉 1991 より)
 
 コーヒーケルベロス (3)
日本人の母を亡くしたアントニオ・モレッリは、三度遇った夏美に《いつぞやの犬を覚えているかい?》と訊ねて、《私が引き取ったんだよ》と続けた。モレッリは、夏美がこぐ自転車の荷台に乗りながらコーヒーを語った。《人生に必要なのは何か? 生きる糧となるものは? 酒か? 恋愛か? 金か? それらは強すぎる。私は一杯のコーヒーだと思う》 《一杯のコーヒーと口ずさむ歌、それが生きる慰めとなるのだ》 《さあコーヒーを飲もう今すぐに! なぜなら人はいつ死んでしまうかわからないからだ!》 《さあコーヒーを飲もう今すぐに! なぜなら人生はあっという間に過ぎ去ってしまうからだ!》 (『珈琲時間』 第17話「Any Day Now」より)
 
 コーヒーケルベロス (4)
コーヒーは‘Kerberos’(ケルベロス)から逃れることができない。いや、コーヒー自体がケルベロスなのかもしれない。さあコーヒーを飲もう今すぐに! 戊戌2018年の新春を迎えて、異彩を放つコーヒーケルベロスの騒乱が始まる。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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