居酒屋で考えるコーヒー2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2017 [2017年08月22日 01時00分]
コーヒーについて考えるに、これまでもワインの本やカカオ・チョコレートの本や紅茶の本や分子調理の本や居酒屋の本から捉えてきたが、今般は再び居酒屋の本で考えて…まぁ、迎え酒みたいな話だけど。
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『居酒屋の世界史』(講談社現代新書 2120)
(下田淳:著/講談社:刊 2011年)
 
 《私は本書で世界の居酒屋に入ることで、一二世紀前後以降のヨーロッパ
  文明(私はこの時期以降をヨーロッパ文明と定義している)の特徴を引
  きだすことを最終目的とした。(略) しかし私は居酒屋をもう少し厳密に
  定義したい。つまり、居酒屋とは、金銭(穀物、貝殻、金属など現物貨幣
  でもよい)の見返りに酒類を提供する営業空間であると。となると、カフェ
  は本来コーヒーを提供する店であったが、そこが酒も扱えば居酒屋の
  範疇に入ることになる。実際カフェは大衆居酒屋にもなった。つまり、金
  銭と引き換えに酒を飲む「場」が、居酒屋である。このように、貨幣経済
  の成立が居酒屋の前提条件であることを確認しておく。(略) 本書は多
  様な文献を、少しずつ「つまみ食い」というより、「つまみ飲み」してでき
  あがったものである。(略) 本書のような世界の居酒屋の概説書(残念
  ながら、ラテンアメリカやオセアニアなど紹介できなかった地域もあるが)
  は、日本のみならず欧米にもないと思われる。》 (「はじめに」pp.3-8)
 
『居酒屋の世界史』は《世界の居酒屋に入ることで》と言っているが、著者が居酒屋を巡った節はない。同じ「居酒屋」を論じている本でも、『日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る』のマイク・モラスキー氏が‘酔顔(すいがん)’で私的文化論を著したのに対して、本書の下田淳氏は‘素面(しらふ)’で史的文化論を述べている。‘素面’なだけに、詩性は薄いが整然たる著述だ。「はじめに」で概要を示し、本章でも10話全ての冒頭に要約を掲げ、「おわりに」は摘要となっている。そして、巻末の参考文献が220も挙げられて、《多様な文献を…「つまみ飲み」してできあがった》本書には微塵も酔気がない。ここまで醒めた視座と構成を貫いている本は、酒や居酒屋の本はもとより、コーヒー本で探そうにも類書は少ない。そこが《世界の居酒屋の概説書》として素晴らしい。 
 
 《古代を別にすれば、ヨーロッパで居酒屋が成立したのが一二世紀頃、そ
  れが増加したのが一六世紀前後であった。一六世紀、イスラム圏では
  カフェ、中国では茶館が、居酒屋の機能のいくつかを引き継ぐようになっ
  た。ただカフェや茶館は都市の文化であった。農村には居酒屋、カフェ、
  茶館は発達しなかった。(略) 私は、「農村への貨幣経済の早くからの
  浸透」がヨーロッパ近代文明飛躍の鍵であると思っている。》 (「おわり
  に」pp.215-218)
 
『居酒屋の世界史』において下田淳氏は、《居酒屋とは、金銭の見返りに酒類を提供する営業空間》であり、つまり《貨幣経済の成立が居酒屋の前提条件》であり、だから《貨幣経済の早くからの浸透》がなかった非ヨーロッパ文明圏の《農村には居酒屋、カフェ、茶館は発達しなかった》と語る。汎世界史論としてはかなり粗暴で、悪酔いしそうな課題も残る説だ。だが、そこにあえて目を瞑って、コーヒーに置き換えて考えると、私には面白くも捉えられる。
まず、世界史に「酒と居酒屋」と「コーヒーとカフェ」を置いてみよう。酒は古代から存在するもので、その後に《貨幣経済の成立》で居酒屋が登場する。対して、生豆だけを煎って使う飲み方のコーヒーは古代には存在せず、概して実質は《貨幣経済の成立》でカフェと共に登場する。だから、居酒屋の歴史を論じても酒の歴史を述べたことにはならないが、コーヒーの歴史を論ずる場合にはカフェの歴史と混交してしまいがちになる。また、「酒と居酒屋」は出現する時期に大きな差はあるが《酒を飲む「場」が、居酒屋である》ことで不可分であり、対して、「コーヒーとカフェ」は時期の差が小さいものの《実際カフェは大衆居酒屋にもなった》ことでカフェにコーヒーが不可欠とはいえない。
したがって、「コーヒーとカフェ」は「酒と居酒屋」に比しても余程に、《ヨーロッパ近代文明》一極の史観に偏りがちである。そうした至極当然の、しかしまた偏向や交錯に惑わされて忘れがちな、コーヒーの世界が独自に有する課題を、本書『居酒屋の世界史』は楽しくも明らかに示している。
 
講談社現代新書では、『居酒屋の世界史』の他にも‘世界史’本が刊行されている。『海の世界史』や『馬の世界史』や『都市計画の世界史』や『高層建築物の世界史』や『世界史を変えた薬』などだが、今2017年秋に旦部幸博氏が著した『コーヒーの世界史』が加わる。新刊『コーヒーの世界史』は、どこまで醒めた視座を貫いている本で、如何なる《特徴を引きだすことを最終目的とした》ものなのか? 今般は迎え酒みたいな話でコーヒーを考えたが、酔いを醒まして新たな『コーヒーの世界史』を待とう。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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