わたしのグランパ

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2017年07月01日 01時30分]
デブゴンまたはサモ・ハン・キンポーこと洪金寶(ホン・ガンボウ)は、2013年1月28日に初孫が生れて、おじいちゃんになった。サモ・ハン監督による映画「老衛兵」は2014年8月にクランクインしたが、翌月にジャッキー・チェンの出演中止が発表された。同9月に香港で雨傘革命(反政府デモ)が起きた。「老衛兵」は2015年に公開を予定していたが、「我的特工爺爺」と名を変えて2016年4月に香港・台湾・中国本土で公開された。この頃からサモ・ハンは古傷の痛みによって杖をついて歩くようになった。「我的特工爺爺」は2017年5月に日本の劇場で上映され始めた。
 わたしのグランパ (1)
その映画館では50歳以上を対象に「1ドリンク50円キャンペーン」をやっていた。コーヒーも50円だが、私は喰種(グール)じゃないからコーヒー以外も飲める。50円のジンジャーエールを手に、1100円のレイトショーを観る。侘しいジジイの映画を観に来たのだから、この侘しいジジイ振りは相応しい。
 
『おじいちゃんはデブゴン』(我的特工爺爺 My Beloved Bodyguard) 観賞後記
 
 《隠居生活を送っていた彼は、中国マフィアとロシアン・マフィアの抗争に
  巻き込まれた隣人の父娘を救うため、封印していた無敵の必殺拳を
  駆使して悪を退治します。まさにサモ・ハン版『レオン』+『グラン・トリ
  ノ』ともいうべき名作の誕生。》 (イントロダクション/映画『おじいちゃ
  んはデブゴン』Webサイト)
 
いいや、違うね。そりゃまあ、『レオン』(Léon/1994)の牛乳エロジジイ(ジャン・レノ:演)も『グラン・トリノ』(Gran Torino/2008)のビール頑固ジジイ(クリント・イーストウッド:演)も、『おじいちゃんはデブゴン』の茶痴呆ジジイより恰好イイ。けれども、前者は監督リュック・ベッソンが次回作の資金稼ぎに(フレンチ)フィルムノワールと香港ノワールを足して割った作品だし、後者は監督クリント・イーストウッドが俳優の引退宣言にアメリカ白人の夢想を描いた作品であって、どちらも監督サモ・ハンほど‘粋’(イキ)じゃない。それよりも「我的特工爺爺」なんだから、サモ・ハン版『わたしのグランパ』というべきだろう。もっとも、元の映画(東陽一:監督/2003)も原作の小説(筒井康隆:著/1999)と違って名作じゃないけれど…。
 わたしのグランパ (2)
 
 《香港の映画市場は残念ながら小さくなり、香港映画にお金を出す人が
  減ってきた。それが悪循環になって低予算で作られるものが増え、国
  際市場でたたかえる作品が出てこない。これが現状ですね》 (サモ・
  ハン:談/藤えりか 「中国返還以来の監督復帰、サモ・ハンと考えた
  香港映画~『おじいちゃんはデブゴン』」/Webサイト『朝日新聞Globe』
  2017年5月27日)
 
映画『おじいちゃんはデブゴン』の冒頭で1972年に訪中したニクソンの後ろにディン役の若きサモ・ハン、これには笑った。実際のサモ・ハンは、この頃に武術指導と俳優の道をゴールデン・ハーベストで歩み始めた。だが、1997年の香港返還を機にカンフー映画と香港ノワールで隆盛を誇った《香港の映画市場は残念ながら小さくなり》、サモ・ハンは監督からも主演からも約20年間遠ざかった。その間に、デブゴンはおじいちゃんになったのだ。もう誰にも止められない。
 わたしのグランパ (3)
 
 《何度も言うが、わしの歳になると命は惜しくない。だからこれは、お前さ
  んたちの思っているような『度胸がある』ってもんじゃないんだな。気に
  なるのは、どんな死に方をするかじゃなく、死ぬまでに何ができるかっ
  てことだ。老人はみんなそうだが、死ぬまでに何かやっておきたい。》
  (筒井康隆 『わたしのグランパ』 文藝春秋:刊 1999年)
 
 わたしのグランパ (4)
一国二制度下の香港は、返還以来の20年でコスモポリタニズムもナショナリズムも失った痴呆症を発している。「我的特工爺爺」のえぐい描写と雨傘革命は同じ病因の多発を示しているわけで、《老人はみんなそうだが、死ぬまでに何かやっておきたい》 のだ。映画『おじいちゃんはデブゴン』を観て、もう悲しく笑うしかない《これが現状ですね》。コーヒーもジンジャーエールも牛乳もビールもいらない、茶でも飲もう。
 
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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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