珈琲桟敷

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2017 [2017年04月28日 23時00分]
山川直人が描く漫画「シリーズ小さな喫茶店」の単行本(ビームコミックス/KADOKAWA エンターブレイン:刊)、1冊目は『一杯の珈琲から』(2015年10月)、2冊目は『珈琲色に夜は更けて』(2016年6月)、そして3冊目は『珈琲桟敷の人々』(2017年4月)と題されていた。「珈琲桟敷」(コーヒーさじき)とは、何だろう?
 珈琲桟敷 (1)
 
『珈琲桟敷の人々 シリーズ小さな喫茶店』の特徴は、収載された話の全てで一つの喫茶店が舞台になっていることだ。「水の戯れ」(連載第21話・収載第24話)から登場した自家焙煎でネルドリップの店「珈琲ロルカ」が、「おしゃべりな夜」(連載第22話・収載第21話)、「人面犬と少女」(第23話)、「さまよえる男たち」(連載第24話・収載第26話)、「消えていく店」(連載第25話・収載第27話)、「花林糖の日」(連載第26話・収載第22話)、「曖昧な記憶」(連載第27話・収載第25話)、「嘘とマッチ箱」(第28話)、「汝の敵を愛せよ」(第29話)、「燦めく星座」(第30話)まで、計10話を通して出づっぱり。収載順では、客の‘月永さん’を「おしゃべりな夜」で主人公にして始まり「燦めく星座」でリフレインさせる単行本の構成は見事。だが、『一杯の珈琲から』や『珈琲色に夜は更けて』にみられた突飛や異様の話が減じた『珈琲桟敷の人々』は、奇譚としての面白味が失せた。
 珈琲桟敷 (2)
 
『珈琲桟敷の人々』は、英文で“Children of Paradise in a Coffee Shop”と記されているから、「天井桟敷の人々」に擬(なぞら)えたに違いない。映画『天井桟敷の人々』(Les enfants du Paradis/1945)を不朽の名作たらしめているのは、ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert/1900-1977)のシナリオに由るところが大きい。そのプレヴェールが、映画公開の翌年に発表した単行本の処女作『言葉たち』(Paroles)、その中に収められた詩‘Déjeuner du matin’(朝の食事)を抄訳して掲げよう。
 
 珈琲桟敷 (3)
 あのひとはコーヒーを
 カップについだ
 あのひとはミルクを
 コーヒーカップについだ
 あのひとは砂糖を
 カフェオレに入れた
 小さな匙で
 あのひとはかきまわした
 あのひとはカフェオレを飲んだ
 それからカップを置いた
 わたしに何も話しかけないまま
 
これは「天井桟敷」でも「珈琲桟敷」でもなくて、「珈琲朝食」(コーヒーあさじき)の詩だ。もう一つ「天井桟敷」とコーヒーを繋げるならば、劇団「天井桟敷」を主宰した寺山修司(1935-1983)だ。寺山修司の第一歌集『空には本』(的場書房:刊 1958)、その中に収められた短歌を掲げよう。
 
 ふるさとの訛(なまり)なくせし友といてモカ珈琲はかくまでにがし
 
これは「天井桟敷」でも「珈琲桟敷」でもなくて、石川啄木の「ふるさとの訛なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」(第一歌集『一握の砂』/東雲堂書店:刊 1910)を本歌取りしている「珈琲乞食」(コーヒーこじき)の歌だ。そして、今の世は「天井桟敷」というよりも「聾桟敷」(つんぼさじき)だ。だから、寺山修司の歌に擬えて、狂った歌を近未来へ掲げよう。
 
 ふるさとに鉛(なまり)あつめし友逝きてモカ珈琲は核までにがし
 
『珈琲桟敷の人々 シリーズ小さな喫茶店』は、「天井桟敷」の人々に向こうを張ったつもりだろうが、大向こうを唸らせるほどの出来ではない。奇矯や怪異の話が減じた『珈琲桟敷の人々』は、漫画としての面白味も失せた。小さな喫茶店「珈琲ロルカ」に桟敷席があるとも思えないが、「天井桟敷」で飲むコーヒーは香味も失せて不味いのだろうか? それは山川直人の課題というよりも、「聾桟敷」の世情に因るのだろう。「珈琲桟敷」とは、何だろう?
 
コメント (0) /  トラックバック (0)

コメント

この記事にコメントする

トラックバック

この記事へのトラックバックURL
http://kisanjin.blog73.fc2.com/tb.php/1024-03c36b2d
編集

kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

05 ≪│2017/06│≫ 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
Powered by / © Copyright 帰山人の珈琲漫考 all rights reserved. / Template by IkemenHaizin