素子作って魂入れず

ジャンル:映画 / テーマ:映画感想 / カテゴリ:観の記:映面 [2017年04月14日 01時30分]
ビートたけしは、《「もしかするとアニメ・コミックの実写版で最初に成功した例ではないか」というような意見があって、「唯一の失敗作は荒巻じゃないか」っていう噂もあるし、その辺は言わないようにって言っておりますけど…》と語った(映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』来日記者会見 2017年3月16日)。草薙素子は《本当に観たい映画は一人で観に行くことにしている》ようで、私も『攻殻機動隊 新劇場版』(2015)を一人で観た。それほど観たくない映画の場合に草薙素子は《観ないわ》と言っていたが、でも、「攻殻機動隊」実写映画化作品を観てみろって囁くのよ、私のゴーストが…
 素子作って魂入れず (1)
 
『ゴースト・イン・ザ・シェル』(Ghost in the Shell) 観賞後記
 
 《面白くするために押井守的な世界にするためにキャラをわざわざ弱
  くしたのに、スカーレット・ヨハンソン版の『ゴースト・イン・ザ・シェル』
  は、「(略)たった1つ足りないものがあるネ。なんだろ? それは強
  いキャラだよ。ハリウッド風の強いキャラを足してみよう」というよう
  なことをやっちゃったのが、今回の大失敗なんですけれども》 (岡田
  斗司夫/Web動画「岡田斗司夫ゼミ」#173表 2017年4月9日)
 
 《本作をより広い観客に理解させ、娯楽作品としての価値を高めるた
  め、とにかく分かりやすくしよう、感情移入させようという意図を強く
  感じる》 (小野寺系/Webサイト『Real Sound 』映画部 作品評
  2017年4月13日)
 
 《日本で制作された『攻殻機動隊』にあって、実写版『ゴースト・イン・
  ザ・シェル』にないもの、それは「曖昧な情感」です》 (ニコ・トスカー
  ニ/Webサイト『oriver.cinema』 レビュー 2017年4月13日)
 
 《近未来モノをやる上で一番避けて通れない生々しい臨場感とか、架
  空の世界の世界のリアリティとか。だから今回のはそう言うのに真
  っ向から挑んだ作品でもある。でもブレードランナーほどうまくいっ
  てるわけではない。(略)結果的にそうなったのか意図してかどうか
  は別として、今作はスクリーンの世界にゴーストが吹き込まれてい
  る。僕に言わせれば相当奇妙な映画だと思うよ。まあ僕は余計な
  とこばっか見てるから、正直なところ、見終わった後にこれ大丈夫
  なのかと思った》 (押井守/Webサイト『GIZMODE』 インタビュー
  2017年4月6日)
 
 素子作って魂入れず (2)
今般の映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、《曖昧な情感》を排した《ハリウッド風の強いキャラを足して》、《とにかく分かりやすくしよう》と、押井守とそれ以後のアニメーション作品をハリウッド映画化したものだった。日本の『攻殻機動隊』シリーズのアニメ作品は、士郎正宗の原作漫画を昇華していても消化不良を起こさせる、そこが面白い。対して、ハリウッドの実写版は、アニメ版を消化していても昇華されたとは言えない。何だかわからない消化不良を楽しみに新たな「攻殻機動隊」を観たはずが、きわめてわかりやすく真っ当なSFサスペンスアクションを観せられた、そこが《相当奇妙》なのである。つまり、私が『攻殻機動隊 新劇場版』を観た時に感じた《“サイバー・オペラ”に堕す危険性》、または《「攻性の幻想」に全て回収されてしまう暗示》、それを今般の映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』は見事に具現化させてしまった。
 
 素子作って魂入れず (3)
押井守は《今作はスクリーンの世界にゴーストが吹き込まれている》などと持ち上げているが、私はそう思わない。スカヨハ(スカーレット・ジョハンソン)にゴーストが吹き込まれていたのは、『LUCY/ルーシー』(2014)であって今作ではない。スカヨハにとって『ルーシー』と今作は、リュック・ベッソンとルパート・サンダース、どちらも女優を食い散らかす癖が抜けない監督の下で演じたことだけが通じている。そして、今作でゴーストが吹き込まれていたのは、草薙素子の母(桃井かおり:演)だけだった。
 
 《確かにいい映画といえなくもないわね。でも、どんな娯楽も基本的に
  は一過性のものだし、また、そうあるべきだ》   《夢は現実の中
  で闘ってこそ意味がある。他人の夢に自分を投影しているだけでは、
  死んだも同然だ》 (草薙素子/『攻殻機動隊 STAND ALONE
  COMPLEX』 第12話「タチコマの家出 映画監督の夢」)
 素子作って魂入れず (4)
 
監督ルパート・サンダースの夢は、何だったのだろう? 草薙素子は電脳の中で散ってこそ意味がある。素子の墓に現実を投影しているだけでは、死んだも同然だ。今般の実写映画化作品『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、「素子(もとこ)作って魂(たましい)入れず」だ。
 
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kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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