カレーなるガッツ美

ジャンル:グルメ / テーマ:カレー / カテゴリ:食の記 [2013年05月28日 00時45分]
水野仁輔氏は、4人組の料理ユニット「東京スパイス番長」の一員である。この「東京スパイス番長」絡みのカレー本の群れが2013年6月に怒濤の如き発売予定……まず『東京スパイス番長のスパイスカレー』(東京スパイス番長:著/主婦と生活社:刊/1500円)、次に『本当においしく作れる人気店のタイ・ベトナム・インド料理』(ナイル善己&トラン ティ ハー・チュパヤン マナット&天野中:著/世界文化社:刊/1575円)、さらに『スパイス選びから始める インドカレー名店のこだわりレシピ』(シャンカール・ノグチ:刊/誠文堂新光社:刊/1575円)……これらに先行して2013年5月に発売されたカレー本は、3780円(税込)!
  カレーなるガッツ美 (1)
『水野仁輔 カレーの教科書』(水野仁輔:著/NHK出版:刊)は、《ちなみに安倍さんが昼に食べたホテルニューオータニの高級カツカレー、特別メニューでお値段3500円以上するとか!》(2012年9月26日:毎日放送アナウンサー山中真の炎上元Tweet)に匹敵する(?)庶民感覚が欠如した(?)特別メニューの高級カレー本(?)である。確かに安くはない…が、この『水野仁輔 カレーの教科書』の‘取材&文’担当は、嶋中労氏(以下、労師)であって…
 
 《コーヒーの世界では南千住バッハの田口護が第一級の理論家だが、カレー
  の世界では“カリ~番長”の異名をもつ水野仁輔がそれに当たるだろう。(略)
  その田口の『珈琲大全』に匹敵するくらいのパワフルな理論書が本日発売さ
  れる。『水野仁輔 カレーの教科書』(NHK出版)がそれで、お手伝いしたボク
  が言うのもなんだが、世界に類を見ない画期的な理論書といえるだろう。(略)
  カレーをこれほどまで緻密に分析し、その中から不動の理論を導き出し、わ
  かりやすく解説した本の出現は、まさしく空前絶後だ。》 (『嶋中労の「忘憂」
  日誌』/『水野仁輔 カレーの教科書』補記/2013年5月20日)
 
…などと息荒くも自画自賛(?)。私の解説に労師の本文はオマケしたコーヒー本『コーヒーの鬼がゆく 吉祥寺「もか」遺聞』文庫版の時にも、《図書館で借りて読む、などという不心得者には大いなる災いと天誅があるべし!》と吠えていたから、カレーの《パワフルな理論書》を立ち読みで済ませたならば、私は労師に呪い殺されるかもしれぬ…仕方なくも購入(笑)。
 
なるほど『水野仁輔 カレーの教科書』は、カレーを論理的に分析して体系化した本であり、カレーを愛好する者にとっては、《長い間不透明だったカレーの世界の視界を切り開き、無法地帯に記念すべき第一歩を踏み出すための道具…》(p.3:はじめに)として‘必読’の書であった。《カレーのゴールデンルール》や《システムカレー学》など、そうした体系化には、《カレーの世界に理由の説明できない魔法のテクニックなどは存在しない。》(p.159:おわりに)という、『田口護の珈琲大全』シリーズと全く同じ姿勢で‘カレーの世界’を描き直そうと挑んだ、労師の尽力が窺える。しかしながら、その奮闘ぶりがパワフルであっても、《その田口の『珈琲大全』に匹敵するくらい》とまでは、私には感賞できない。そもそも、単一の植物原料からまっすぐ一本のプロセスで生産・加工・飲用の行程を貫いた‘コーヒーの世界’に比べて、与えられる原料や材料も、求められる形態や香味も、その種類がおそろしく多様な‘カレーの世界’は、行程を貫く統合に無理がある。例えば、クミンなどのスタータースパイスに関して、《…黒くなっても焦げ臭がしなければいい。その極意は、と聞かれても困る。経験を積めば、感覚的にそのタイミングとニュアンスがわかってくる。》(pp.52-53)という‘逃げ’を打たなくては先へ進めないのである。あるいは、《カレー粉作りの要諦は、香りを際立たせる「焙煎」と、香りを落ち着かせる「熟成」とのバランスにある。》(p.19)という至言の直前に、《なかには3年熟成すべしというものもあるが、私は1週間ほどで十分だと思っている。1か月も熟成させればかなり深みのある香りが出てくる。》(同p)という粗雑な見解を置いたことにも、私は納得し難い。別の言い方をすれば、‘コーヒーの世界’でいう‘抽出’工程の体系化に類する実証には近づいたが、‘焙煎’工程には踏み込みきれていない、といったところか? ‘カレーの世界’で、《ものづくりに求められるのは冷徹な実証性と論理性であって…》(『田口護の珈琲大全』p.2:はじめに)と言い切れる段階は、まだ少し遠いようである。『水野仁輔 カレーの教科書』には、未だ体系化を待つ課題が残っている。
  カレーなるガッツ美 (2)
とは言え、インド料理系のカリー製作における原理原則を、《その原則は、あらゆるタイプのカレーに通用する。》(p.46)として、それを華麗に解き明かした水野仁輔氏と労師。2人の‘ガッツ’と、その成果である「ゴールデンルール」の‘美’には敬意を表したい。読んでいるうちに、(私と同じ静岡県に育った著者・水野仁輔氏と同様に)浜松の「ボンベイ」でインドカリーに出会ったこと、東京に出向いて日に何件もインド料理屋やカレー屋をハシゴしたこと、自宅で『むげん堂のインド料理入門』(元祖仲屋むげん堂:刊/1987年)を片手に半年間カリーを作りまくって食べ続けたこと、などを思い出した。また少し‘カレーの世界’を探ってみようか……『水野仁輔 カレーの教科書』は、華麗なる‘ガッツ’と‘美’が薫るのだ。
 
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kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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