1995年の自然遺産

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:回顧編 [2011年06月26日 06時00分]
「駅弁の日」が制定されて丸2年が過ぎた日の朝、『蕎麦打』(文庫版/加藤晴之:著)を新幹線の車中で読みながら私は京都に向かう…アジアで初めて開催される「国際コーヒー科学会議」に参加するために。兵庫県南部地震により発生した阪神・淡路大震災から83日経過、地下鉄サリン事件から21日後、1995(平成7)年4月10日のことであった。
 
  ASIC95.jpg
ASIC=‘Association Scientifique Internationale pour le Café’(当時名称/現在は‘Association for the Science and Information on Coffee’に改称)の「第16回 国際コーヒー科学会議 京都大会」(ASIC'95)は、京都グランドホテル(2階)で開催された。当時、UCC上島珈琲社長の上島達司氏は、兼任する全日本コーヒー協会の会長(1990年就任)として「国際コーヒー科学会議」の日本への招致開催を進めていた。前戯行事とも解せられる1992年「国際コーヒー文化会議」の翌月には、「1991年ミス・コーヒークイーン・コンテスト」特別賞を受けた草野世湖氏を全日本コーヒー協会秘書に広告塔として起用するなど精力的に活動し、運営実行委員長として「ASIC'95」を催した。ASIC大会の日本招致は先代UCC上島珈琲創業者の悲願でもあったが、その上島忠雄氏は京都大会の実現を見届けることなく、前前年(1993年)10月31日に死亡している。
 
ASICは「コーヒーの栽培や加工に関する技術開発やコーヒーと健康に関する研究の成果を科学者や専門家が発表する国際的な集いの場」であり、京都大会では世界36ヵ国から約450人が参加した。5日間の会期で、生理学・化学・食品工学・農学の4分野に関して、オーラル・プレゼンテーションとポスター・プレゼンテーションが実施された。私は、滞在して全てに参加を果たした、科学者でもなく業界人でもない(おそらく)唯一のシロウトであった。以下は会期中に聴講したときの、私のメモ抜粋(基調講演分のみ)である(敬称は略す)。
 
  ASIC95 (1)
【第1日:1995年4月10日】
 
参加登録後、開会式に。
故・上島忠雄氏を追悼、上島達司ASIC運営実行委員長他挨拶。
 
Physiology(6講演)
 
◎古賀 良彦 「コーヒーの香りが脳機能に与える影響」
 ⇒男<女がコーヒーの香りで認知機能が改善。
   アロマを嗅ぐだけでカフェインと同作用。
   コーヒーはアロマセラピーに使用可能、精神障害にも有用かも。
  
◎山本 卓二 「コーヒーの精神生理学」
 ⇒好む飲料がコーヒー…味覚>嗅覚>体性感覚>覚醒、紅茶…視覚を挙げる。
   アロマを嗅ぐだけ、味見だけ、飲用の各々の感情プロフィールに差異。
 
◎Martijn B. Katan 「コーヒーと循環器系との課題」
 ⇒ジテルペン含有量は、焙煎度で影響しない、抽出時間とも関係ない。
 
昼食は近鉄百貨店の「鶴喜そば」で大名定食(ざるそば+天丼)。
夕食はルネサンスの「ジオ・ジオーノ」でキノコとベーコンのスパゲッティ(クリームソース)。
 
 
【第2日:1995年4月11日】
 
Physiology(4講演)
 
◎鈴木 建夫 「コーヒーはどのようにして人間の健康に影響を及ぼすか?」
 ⇒日本の農水関連の研究スタッフは2800名余、うちコーヒーについては0名、
   国内で流通膨大でも生産向上に寄与しないコーヒーは研究するな、と言わ
   れる。
 
◎Silvio Garattini 「コーヒー、カフェインおよび健康」
 ⇒喫煙者にとってコーヒーは死亡率の低下作用を促すポジティブなものといえる。
   1980年発表の「1日2杯以上コーヒー飲用者の癌性死亡率は1.7倍」が
   誤り根本。
 
Chemistry(12講演)
 
◎Werner Grosch 「コーヒー揮発性成分の機器測定及び官能分析」
 ⇒roasty,musfyはアラビカ<ロブスタ、
   sweetish,buttery,smokeyはアラビカ>ロブスタ。
 
◎David C. Hinman
  「焙煎コーヒーと粉砕コーヒーにおける固形物とヘッドスペース間のアロマの分布」
 
◎本間 清一 「インスタントコーヒーの金属キレート性物質の特性」
 
昼食は近鉄名店街の「葵」で天ざる。
夕食前に出町柳の「カミ家珈琲」でコーヒー。
夕食はカミ家の隣の「響」でわりごそば。
 
 
【第3日:1995年4月12日】
 
Chemistry(10講演)
 
◎Gary Aubrey Reinecccius 「メイラード反応(モデル反応系で行ったフレーバーの研究)」
 ⇒フレーバー成分には前駆体(中間体)がある。肉やチーズのように低温でも
   微生物等による前駆体形成を利用すればコーヒー豆をローストしなくても
   フレーバー生成?
 
PMはエクスカーション(金閣寺~平安神宮~都おどり)で休講、私は不参加で大阪へ。
昼食はお初天神の「瓢亭」で夕霧そば(1斤半)。
千日前の「丸福珈琲店」でコーヒー。
夕食は(京都に戻り)東塩小路の「本家 第一旭」(たかばし)で特製ラーメン(麺硬・葱多)。
 
 
【第4日:1995年4月13日】
 
Food Engineering(13講演)
 
◎V. D. Nagaraju, K. Ramalaxmi, P. N. Srinivasa
  「インド産低級コーヒーの噴流層による熱風焙煎」 (基調講演外)
 ⇒インド産BBB(Black, Brown, Bits)低級コーヒーを新開発SBR
   (Spouted Bed Roaster)で焙煎。
 
Agronomy(14講演)
 
◎R. A. Muller 「コーヒー栽培の将来展望」
 
◎André Charrier 「Coffea arabica L.の起源と発生学的多様性
  DNA分子マーカーによる研究」 (基調講演外)
 ⇒arabicaの起源…DNA分析ではeugenioidesがarabicaに近い(AP22参照)。
 
昼食はポルタの「田ごと」でざるそば。 
夕食前に出町柳の「カミ家珈琲」でコーヒー。
夕食は東塩小路の「新福菜館 本店」で中華そば。
夜食に「てんぐ寿司」を持ち帰り。
 
 
【第5日:1995年4月14日】
 
Agronomy(15講演)
 
◎Wilson R. Opile 「アフリカ産コーヒー概観」
  「コーヒー遺伝子資源に関するACRNプログラムに用いるアクション・プログラム」
 ⇒1993年ACRN(アフリカ・コーヒー・リサーチ・ネットワーク)設立…主な生殖質は
   コートジボアール(カネフォラ)・エチオピア(アラビカ)・マダガスカル(マスカロコフェア)。
 
◎Bungaran Saragih 「インドネシアのコーヒー 実態、問題と展望」
 
昼食は駅西の「天下一品 八条口店」で中華そば(こってり)。
PM聴講後、閉会式。
その後、西本願寺前の「西利 本店」と「亀屋陸奥」で漬物と松風を買い、
滞在中に毎日通ったポルタの「イノダコーヒ」でコーヒーと共に70余の講演を味わい返して、
帰途へ。
  ASIC95 (2)   ASIC95 (3)
 
「第16回 国際コーヒー科学会議 京都大会」(ASIC'95)は、コーヒー業界団体である全日本コーヒー協会が実質の主催者であり、コーヒー消費振興に日本が注力する姿を示威する機会として画策されたものであったと思われる。だが、これを謗り蔑むべき口実は日本のコーヒー業界には与えられない。意図がいかなるものであれ、これほど内容の充実したコーヒー関連の科学催事が行われたことはその後の日本で(現在に至るまで)無い、恥ずべき実態である。世界のコーヒー業界では自然科学分野の研究が圧倒的な細分化と専門性で先進していることを忘れたかのように、その後の日本では一知半解で愚劣な営利催事ばかりを繰り返している。‘natura non facit saltum.’(自然は飛躍せず)どころか、コーヒーに関わる業界や愛好者が飛躍を止めてしまった? こうして、1995年の「国際コーヒー科学会議」は珈琲「自然遺産」となったのである。
 
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kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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